障害者問題研究  第34巻第3号(通巻127号)
2006年11月25日発行  ISBN4-88134-454-4 C3037  定価 本体2000円+税

特集 障害のある人のコミュニケーションと支援

特集にあたって 茂木俊彦

障害とコミュニケーションをめぐる理論的課題
  ―その視座,いくつかの視点/茂木俊彦(桜美林大学)
要旨:本稿は障害および障害のある人々において生じるコミュニケーションの問題を理論的に解明するさいに採用すべき視座、視点について論じている。この問題の基本的性格は健常者の場合と共通である。だが、障害者が遭遇するコミュニケーション困難には独自性もある。たとえば「体験の共有」とそれを基盤としてサインを共同で創出し、これを一般化していく課題がある一方で、個別の障害に対応する補助的・代替的コミュニケーション手段の使用を権利として認め確立していく課題がある。またコミュニケーション問題は人間発達の問題に深くかかわることも指摘した。
キーワード:サイン、コミュニケーション手段、コミュニケーションの権利


聴覚障害者とコミュニケーション支援の今日
  ―手話及び日本語とIT活用/藤井克美(日本福祉大学)
要旨:聴覚障害者のコミュニケーション手段は、手話と日本語である。したがって、聴覚障害者のコミュニケーション支援は、手話と日本語でされる。このことは、聴覚障害児教育が手話と日本語の二言語使用の教育をすすめることが求められることであり、そのために必要かつ合理的な条件整備を整えることで可能になる。手話を第一言語にする条件を整えつつ、現状からすれば、早期教育において、手話を第一言語とする場合も、日本語を第一言語とする場合も、二言語併用への可能性はあると考える。手話通訳者のボランティア的位置づけを名実ともに脱却させ、社会的位置づけや待遇を高め、手話通訳活動がすべての聴覚障害者の社会参加のニーズに応えられコミュニケーション支援となるようにしていく必要がある。また、聴覚障害児の両親が聴者の場合の支援もできるようにシステム化していくことが望まれる。
 さらに、聴覚障害者の生活の種々の場面で情報へのアクセスがより平易にできるようにIT機器などの活用も可能にしていく支援や援護体制が求められる。
キーワード:コミュニケーション、手話、日本語、バイリンガル、IT機器、手話通訳士


コミュニケーションの困難からとらえた肢体不自由障害とその支援/伊藤英一(長野大学)
要旨:コミュニケーションについて情報理論の観点からモデル化を行い、利用するメディアごとに分類をした。言語コミュニケーションに限定すれば、電子メディアを共通の情報媒体とすることで、遠隔地とのコミュニケーションや、利用者に視聴覚障害や肢体不自由があっても直接コミュニケーションを図ることが可能となる。肢体不自由障害のコミュニケーションを疎外する要因は、会話が困難な場合と、機器操作が困難な場合とがある。会話を支援する際には、文字(言語)を利用する方法とシンボル(非言語)を利用する方法、さらには即応性の高い方法と表現力の高い方法など、利用者の身体機能や目的、用途に応じた選択が必要となる。機器操作を支援する際には、利用者の生活環境への適合(個別対応)が必要なため、専門技術と経済的支援が不可欠となる。このように意思伝達装置などの導入には高度な専門技術のある支援者が必要であり、現時点では地域格差が大きい。「完全参加と平等」に必要なコミュニケーション拡大への支援はまだ充分ではなく、支援制度などを充実させる必要がある。
キーワード:コミュニケーション障害、肢体不自由、意思伝達、AAC、支援技術、IT

自閉症教育とテクノロジー/渡部信一(東北大学)
要旨:本稿では、筆者がこれまで行ってきた障害児教育とテクノロジーに関する研究を紹介した。はじめに、最先端のテクノロジーを障害児教育の現場で活用した実践を示した。次に、テクノロジー研究で得られた知見、特にロボット開発で得られた知見を自閉症教育に応用した実践を紹介した。現在、「教師から自閉症児へ」という一方的な教育方法に対する「行き詰まり」が認められる。この「行き詰まり」は、ロボット開発において1980年代に起こった行き詰まり、つまり「フレーム問題」と同様のものである。「フレーム問題」に陥ったロボット開発の現場におけるパラダイムシフトを参考にして、筆者はひとりの自閉症児と17年にわたり関わってきた。筆者が選択した方法は、周りの人々や環境・状況との関係性を大切にしながら子ども自らが持つ「学ぶ力」の発達を支援してゆくという方法であり、それは1980年代から認知科学において主張されるようになった「状況的学習論」に基づいていた。
キーワード:自閉症教育、テクノロジー活用、ロボット研究、認知科学、状況的学習論

事例報告
 視覚障害者とコミュニケーションの困難――事例から課題と指導を考える/吉田重子(北海道高等盲学校)

実践報告
 技術的支援方策を活用したコミュニケーション支援と,地域連携教員支援システムの構築
  /石部和人、木村政秀、辻野賢治、西堀二郎(滋賀大学教育学部附属養護学校)、黒田吉孝(滋賀大学)
要旨:本実践では、技術的支援方策を活用した知的障害児へのコミュニケーション支援について、アシスティブテクノロジーを活用した実践と、電子掲示板を活用した実践について研究的視点から述べる。また、教員間のコミュニケーション支援も大切であると捉え、養護学校のセンター化に向けて構築している地域連携教員支援システムについて紹介する。
キーワード:コミュニケーション支援、アシスティブテクノロジー、遠隔協働学習、電子掲示板、地域連携、教員支援

発語が困難な肢体不自由児のコミュニケーション能力と自我を育てる
  /櫻井宏明(埼玉川島ひばり養護学校)
要旨:発達的には1歳半をこえていても発語が困難な重度肢体障害者には、コミュニケーションを支援するために、適切なコミュニケーションエイドを導入することは有効である。学校教育でコミュニケーションを支援するといったときには「伝える手段」を補うだけでなく、「伝える主体」の能力を育てるという視点が重要である。ことばには「コミュニケーションのツール」の他に、「思考のツール」、そして「自己との対話のツール」という役割があると言われる。コミュニケーションエイドを利用して、集団の中でコミュニケーションの能力を育てるとともに、認識力や自我を育てるアプローチが重要である。
キーワード:重度肢体障害者、コミュニケーション支援、AAC、コミュニケーションエイド、自我


海外動向
 欧米における障害のある人のコミュニケーション支援――科学的根拠をベースとした実践
  /巖淵守(広島大学)
要旨:コミュニケーションに障害のある人への支援に関する研究分野として日本にも導入されている拡大・代替コミュニケーションに関して、近年、科学的根拠をベースとした実践が欧米で注目を集めている。コミュニケーション支援の技法や技術が、どの程度の効果があるかについての客観的・定量的なデータが求められる背景、データ取得や分析のためのツール、コミュニケーションエイド利用にまつわる研究の例など、日本でも今後議論の対象になることが予想される話題を中心に欧米の現状を紹介する。
キーワード:AAC、欧米、科学的根拠、符号化法、ノンバーバルコミュニケーション


資  料
 知的障害者の高齢化に対する親の意識――知的障害者の親達に対するアンケート調査を通して
  /三原博光(県立広島大学)、松本耕二(山口県立大学)、豊山大和(近畿福祉大学)
要旨:本研究の目的は、アンケート調査を通して、知的障害者の高齢化に対する親の意識について明確にすることであった。その結果、274名の親達などから回答が得られた。子どもである知的障害者の多くは、自宅から通所授産施設などに通っていた。そして、この知的障害者達の年齢は、多くが20歳から30歳までであり、まだ高齢の年齢に達していなかったが、大部分の親達は、将来の知的障害者の老後について不安を抱えていた。不安の理由としては、親自身が高齢となり、知的障害者の世話が困難であることなどが挙げられていた。しかし、知的障害者の介護については、親達はきょうだいには期待をしていなかった。ただ、親達は、現在、将来の知的障害者の老後に不安を抱えながらも、知的障害者が年老いてきたとは感じていなかった。また、知的障害者自身の多くも、自分自身が年老いたと感じていないようであった。
 授産施設などにおける定年制の導入については、多くの親達はわからないと回答していたが、軽度知的障害者の親達はそれを望んでおらず、知的障害者にできる限り働いてほしいという気持ちをもっていた。
 親達が期待する高齢の知的障害者の生活場所や人生の終焉の場所は、主に「自宅」、「グループホーム」「現在生活をしている場所」であった。親達は、子どもの住み慣れた生活環境で人生を終えることを望んでいるようである。
キーワード:高齢化、知的障害者、親、老後、介護


 知的障害者グループホームにおけるホームヘルプサービスの利用に関する調査研究
  /森地徹(城西国際大学)
要旨:2004年9月から10月にかけて、横浜市内のグループホーム218ヵ所を対象にグループホームでのホームヘルプサービスの利用に関する調査を郵送調査法による質問紙調査で行った。主な目的はグループホームでのホームヘルプサービスの利用状況の把握であり、回収率は51%であった。調査の結果、グループホームにおいてホームヘルプサービスは必要とされている程には利用されておらず、その利用を妨げる阻害要因が明らかにされた。しかし同時に、グループホームでホームヘルプサービスを利用することにより、入居者個々のニーズの充足が図られている様子が窺え、ホームヘルプサービスを利用することの有用性が窺えた。今後、グループホームはグループホームとケアホームに分類され、ホームヘルプサービスの利用は保証されていない状況にあるが、本調査ではホームヘルプサービスの利用がグループホーム入居者の支援ニーズの充足のために必要とされている状況が窺える結果となった。
キーワード:知的障害、グループホーム、ホームヘルプサービス、地域生活支援、社会参加支援、自立生活支援


時事短評
 自立支援法が障害児福祉にもたらす諸課題/中村尚子(立正大学)

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