障害者問題研究  第30巻第4号(通巻112号)
2003年2月25日発行  ISBN4-88134-104-9 C3036  定価2000円+税



特集 支援費制度と障害者の生活

特集にあたって/峰島 厚(立命館大学産業社会学部・本誌編集委員 全障研副委員長

 本特集の各稿執筆や編集のさなかも、支援費制度は大きく揺れつづけた。そうした動向の一つひとつが障害者福祉の今後のあり方に重要な問題を投げかけている。

 その一つは、きょうされん「障害者のための社会資源の設置状況等についての調査結果」が2002年12月に発表されたことである。この調査によって、全市町村のうち支援費制度21事業を一つももたない市町村が約15%あり、約87%の市町村ではデイサービスがない、ショートステイは61%、ホームヘルプは約20%の市町村で未整備であるという事実が明らかにされた、12月に公表された新障害者プラン、重点施策5か年計画は、これら実態にほとんど応えていない。支援費制度の前提となる市町村の社会資源整備はいぜんとして重要な課題である。

 二つには、障害者関係事業所の連合体諸団体の運動によって支援費単価が改善されたことである。特に重度障害の重い人の単価が改善された。支援費単価とは福祉商品の価格にあたるものだからその値上げは消費者である利用者負担に結びつきがちだが、障害者の権利を守る事業を維持するためにと厚生労働省へ働きかけたことにより単価改善が実現した。市場化はされたが、より多くを公的資源で賄って公的性格を守ろうとした重要な運動であった。今後の教訓にすべきだろう。

 三つは、1月に厚生労働省から突如提起されたホームヘルパーの利用上限設定が、国際障害者年以来の障害者関係団体の大同団結で撤回されたことである。ここでも明らかになったのは、障害者の実態や願いに応えて提起された支援制度ではないという点である。そのことが関係者の願いとして束ねられたとき、力の強さを示した。

 四つは、03年度予算案で突如として出された地域療育等支援事業、市町村生活支援事業の一般財源化の問題である。補助金事業の地方交付税による一般財源化は、本来、国が先導的に地方の施策を誘導し、ほとんどの自治体が実施するようになってからなされるものだが、そうした国の責務なしに強行された。地方分権あるいは市町村合併が障害者施策や障害者の権利保障にどのように影響するのか、私たちの研究運動の重要な課題としてつきつけられた。

 五つは、これらの事態が、マスコミによってかなり一面的に報道されたことである。新障害者プランは「脱施設化」をめざすものとして評価され、ホームヘルパー問題は「脱施設化のための地域生活支援に逆行」と報道された。「脱施設化」政策をとるかどうかにかかわらず、絶対的に遅れている地域生活支援は充実しなければならないし、現入所施設利用者の負担はこれ以上増やすべきではない。いわんやホームヘルパーの上限設定が解除されたから「脱施設化」が推進される現状ではない。これらのマスコミ報道は、世論や障害者関係者に分断をもちこむものである。

 各執筆者が重要な展開を感じながら葛藤しつつ書かれたことに感謝したい。


 支援費制度の問題点 
   峰島厚
(立命館大学産業社会学部)

 支援費制度は、福祉の公的責任を縮小し、利用契約制度と民間企業の参入からなる社会福祉基礎構造改革と、国の財政抑制を主眼とした社会保障制度改革の二つの改革の一環としての政策である。福祉の市場化は、福祉サービスが金銭換算されたうえでの需要と供給の売買過程である。国の支援費単価決定には平等な福祉ニーズの保障のための市場の論理に委ねるべきでない部分を統制する役割があるが、科学性と民主主義の保障がないと福祉行政の中央集権的管理システムとして働く危険性がある。公表された支援費単価を見ると、調査による裏づけもないまま現行の措置費財政を機械的にスライドさせたにすぎず、施設サービスでも居宅サービスでも国の財政負担削減が前面に出て、障害程度区分も支援度合いを反映せず実態にあわない。市町村は、支給決定の権限と責任をもち、また単価や支給量の裁量権をもつことが特徴だが、財政的負担の困難から申請や利用の抑制がはたらく可能性が高い。ケアマネジメントが制度化されず、市町村に一任されたことは、利用者の権利を保障する観点から問題であり、今後、利用促進運動のなかでケアマネジメント理論・ケアマネージャー論の深化が求められる。

 ケアマネジメントの視点からみた支援費制度
   植田 章
(佛教大学社会学部)

 
障害者福祉の新しい制度、「支援費制度」への移行が現行水準からの後退に結びつくことがないように、社会福祉方法論研究の立場からサービス提供のプロセスとかかわって関連するいくつかのポイントについて検討を加えた。支援費制度の決定基準と内容については、これまでの福祉実践に基づいて社会的支援の範囲と支援課題についての基準を明確にしていく作業が求められている。その際、WHO国際生活機能分類(ICF)の成果に照らした再検討も不可欠である。また、支援費制度の申請段階から「個別支援計画」の作成、支給量の管理を含めて、きめの細かいケアマネジメント体制の確立が求められている。そして、その為のアセスメントの視点と方法は、日常の福祉実践の着目点と重なっていてこそ支援問題が浮き彫りにされることを明らかにした。

 社会福祉法人制度の「規制緩和」と支援費制度
   鈴木清覚
(全国社会就労センター協議会・ゆたか福祉会)

 
社会福祉法人は、1951年、社会福祉事業法によって創設され、民間の社会福祉事業経営主体でありながら公共の性質をもつものとして規制されてきた。社会福祉基礎構造改革では、これら規制を緩和して企業参入を促し、市場原理のもと利用者を消費者ととらえ自己決定・自己責任を求めるとともに事業者に対しては消費者保護の観点から一定の権利擁護の措置がとられる。会計制度も緩和された。措置費による公費を受託し、施設・事業ごと厳格に収支を明らかにしてきたものが、減価償却費の導入など一般企業の会計システムを基本とし利益の追求がめざされる。利用者と協力・共同関係でつくり上げてきた社会福祉施設の立場からこれらの規制緩和策には矛盾が多いことを指摘した。さらに2002年9月に支援費仮単価が発表されると、民間施設給与改善費の廃止、定員規模別単価の大区分化、「重度」類型の廃止などにより、障害者施設の経営危機を招く収入減が明らかになった。セルプ協はじめとした関係団体では、必至の運動を展開し一定の改善を獲得したが、多くの課題が残されており、ことに利用料負担額の値上げは大きな問題である。

 市町村における支援費制度移行準備の現状と今後の課題
  今村雅夫
(京都市右京区福祉事務所・全国公的扶助研究会運営委員会)

 支援費制度への移行を目前に、市町村における準備状況について述べた。まず介護保険制度と支援費制度を比較し、前者には低所得者にとっての過重な負担とサービスからの排除、選択と自己決定の困難な人が放置されるなどの問題点があること、後者は租税が財源で保険料負担がなく利用料についても応能負担だが、基盤整備の面では立ち後れていることを指摘した。管内の施設は居宅サービスの事業体の量的不足、相談支援体制の不備など、市町村の実施体制は全体として貧弱でかつ著しい自治体間格差が放置されている点について具体的に明らかにした。次に、制度開始を前にした市町村の準備について論じた。居宅介護では予測を上回る支援費単価となったが、事業者の指定申請は遅れており、予算の制約による支給量の抑制が懸念される。また制度開始3ヶ月前になっても制度の運動にかかわる重要事項が明らかにされていないことが市町村の準備作業を困難にしている。潜在的なニーズもふくめて真に申請者の意思を尊重した聞き取りと相談援助を行い、ただちに利用可能なサービスに限界がある場合でも申請を抑制せず、求められるサービスの種類と量を明確にすること、そのためには障害者ケアマネジメント従事者の要請と利用者本位の相談体制づくりが不可欠であると述べた、最後に、京都市、吹田市、豊中市、東京都足立区の準備状況について簡単に紹介した。

資料と解説
  支援費制度における指定基準と問題点 上西順三
(堺市・ほくぶ障害者作業所)

  支援費制度における支援費単価 木全和巳
(日本福祉大学)

調査報告
 重度知的障害(児)者介護問題の社会階層性
   山本敏貢
(大阪千代田短期大学)

 2001年秋に実施した『重度知的障害(児)者の家庭での介護支援についての実態調査』結果報告から家族の社会階層について分析した。2003年4月支援費支給制度が導入されるが、障害者とその家族の仕事や収入、地域での暮らしの実態をみると、支援費支給制度で障害者とその家族の基本的人権を保障することは難しい。障害者とその家族の暮らしの実態の支援費支給制度には大きな乖離がある。家族介護を前提とした在宅支援サービスは、低所得労働者家族にとっては利用しにくいものとなっている。今求められている改革は、いかなる暮らしの状態に陥ったとしても、障害をもっている人々が乳児期から高齢期まで住みなれた地域でいつもでも安心して暮らしつづけることのできる体系的な地域支援制度である。

報告
 吹田市に支援費制度改善を求める市民の運動 鈴木英夫
(さつき福祉会)
 障害児通園(デイサービス)事業と支援費制度 田村智佐枝
(宮崎・延岡子ども発達支援センターさくら園)

連載
 教育実践にかかわる理論的問題 進路指導とトランジション(3)
 青年期におけるトランジション支援の課題――学校卒業後の活動を中心に 國本真吾(鳥取短期大学)

 30巻総目次

●あわせてお読みください
  『支援費制度活用のすべて』

■ご注文は、注文用紙(ここをクリックしてください)にて電子メールしてください。確認しだい宅配便(送料210円)で
  発送いたします。送料含む代金は同封の郵便振替にてご送金ください。


矢印 もどる