障害者問題研究  第31巻第1号(通巻113号)
2003年5月25日発行  ISBN4-88134-114-6 C3036  絶版



特集 重症児者の医療と地域ケア

特集にあたって 「重症心身障害児療育の原点」(PDFファイル)  細渕富夫

重症心身障害児療育の歴史 重症児施設設立の経緯を中心に
   細渕富夫(埼玉大学教育学部)
 重症心身障害児の略称問題について検討し、医療を中心とする特別なニーズの有無や近年の使用状況等から見て、「重障児」よりも「重症児」を用いる方が妥当であるとの考えを述べた。次に、小林提樹(後に島田療育園長)らの慶大「小児衛生相談」および日赤産院小児科での活動に焦点を当てて重症児問題の顕在化過程を論じ、最も早期に設立された重症児施設・島田療育園とびわこ学園の設立までの歴史的経緯を述べた。さらに、国策医療として重症児が取り上げられた社会的背景に触れつつ、国立療養所重症児病棟の開設経緯を述べた。

超重症児の生命活動の充実と教育的対応
   川住隆一(東北大学教育学研究科)
 長期にわたり濃厚な医療ケアを必要とするといわれる「超重症児」への対応のあり方が、重症心身障害児療育および障害児教育の重要な課題となっている。子どもたちの生命や健康を守り、さらに生命の質の向上や生命活動の充実を図ることが両者に共通した大きな課題となる。ここではまず、筆者らが全国の盲・聾・養護学校を対象に実施した「常時『医療的ケア』を必要とする重度・重複障害児への教育的対応に関する実態調査」(川住・石川・早坂・後上、2001)の一部から、養護学校におけるこれら児童生徒の健康を守るための取り組みの現状を紹介した。内容は、健康観察、健康指導、健康管理の3つに大別される。つぎに、養護学校教師による超重症児に対する教育実践報告10事例を取り上げ、@対象児の障害状況、A指導の手がかり、B指導目標や指導方針、C指導方法や活動内容、D指導の成果を整理し、教育実践の現状と課題を考察した。

超重症児の在宅での医療的ケアとQOL
   船戸正久(淀川キリスト教病院小児科)
 人工呼吸療法など医療技術の急速な進歩は、今まで生存不可能であった超重症児の長期生存を可能とした。こうした児が在宅でQOL(生命の輝き)を保ちながら生活するためには、医療的ケアも含む地域の支援体制の構築が重要となる。そのことは超重症児の「より良い生と死」を含んだトータルケアを考えなければならない時代になったことを意味する。特に家庭や学校における医療的ケアは、もっとも大きな緊急課題である。大阪府医師会勤務医部会小児の在宅医療システム検討委員会では、医療的ケアマニュアルとビデオを作成し、医師会、看護協会、教育委員会との連携の下、教育現場を支える体制を検討している。医療的ケアは、医療行為というよりは児のQOLを支える生活行為である。今後、医療的ケアを支える医療関係以外の援助者を守る体制整備が重要である。最後に治癒しない病気を抱えながら人間らしく生きるための第二医療の重要性も指摘した。

思春期・青年期における重症児の発達と医療
   小谷裕実(京都教育大学発達障害学科)
 かつて重症心身障害児(以下、重症児と略す)は、幼児期に亡くなることが多く、生き抜いても思春期に大きく体調を崩して成人になれないと考えられてきた。しかし近年、医療と教育の発展により、成人を迎えることはけっして珍しいことではない。一方、重症児には10歳以降に退行現象が出現する可能性がある。特に思春期には、身長スパートとこれに伴う急激な体の変形拘縮、運動機能の退行、摂食や呼吸の障害を引き起こすことが少なくない。よって、この時期から身体諸機能の適切な評価を行い、重症児の生活環境を含めた介護方法の再調整が、その後のQOLの向上につながる。特定の者による介護の特殊化で対応すると、重症児とその家族の健康と生活の維持が困難となる。重症児の「自立」のためには、医療と教育が専門性を発揮し、地域福祉も一体となって連携し、保護者のみに支えられていた軸足を社会にシフトすることで、彼らの生活を同等に維持しサポートすることが不可欠であろう。

動 向
医療的ケアを必要とする子どもたちの教育保障とその展望
  下川和洋(東京都立府中養護学校)
 周産期医療や救急医療の進歩によって新生児等の救命率は向上した。一方で、障害が残り、いわゆる医療的ケアを必要とする児が、自宅で生活するようになってきた。1988年に東京都教育委員会が「医療的ケア必要児」の就学措置を「原則として訪問学級」とする見解を示し、学校教育における医療的ケアへの対応の問題が顕在化した。その後、教育現場での実践、諸団体、医療・福祉関係者の協力などによって地方自治体独自の取り組みが始まり、1998年には文部省(当時)の「特殊教育における福祉・医療との連携に関する実践研究」へとつながった。本稿では、「医療的ケア必要児」の教育問題が起きた社会的背景と従来の障害分類と異なる「医療的ケア必要児」の捉え方を明らかにするとともに、教育権保障に向けた取り組みの経過や現在の課題と展望について述べた。

事例研究
重度心身障害者のゆたかな地域生活を Oさんとともに無認可通所施設が切り拓いてきた16年
   あらぐさ職員集団  松村誠・石井憲生・田中紀江・片岡美恵・尾寥駐
 養護学校卒業後、行き場のない障害の重い人の日中の居場所として、通所施設あらぐさは誕生した。ここに1986年、養護学校高等部卒業後すぐ開所時から入所し、16年間かかわってきたOさんの事例を検討した。無認可施設の困難の中で主体性を培う生活づくりに取り組み、家族の介護力の低下や、加齢による体力の低下などにも対応しようとしてきた。摂食のトラブルや吸入開始などより濃厚な介助が必要になり、医療的ケアを含む介助の見直しや専門職との連携が求められている。Oさんは地域生活のなかで人生の年輪を重ね、発達年齢だけではかれない豊かな発達の姿を見せている。

各地からの報告

横浜の重症心身障害児――家庭支援の現状と課題
   横浜重心グループ連絡会ぱざぱネット 下山郁子
要医療的ケア児の主体性をはぐくむ療育 反回神経麻痺児の自立吸引に向けて
   大津市やまびこ園・教室 小口圭子
ゆたかな卒後の生活をめざして
   重度障害者活動施設ねーぶる 鷹巣裕美子
重症心身障害者の日中活動を支える――府中共同作業所あおぞら班の取り組み
   社会福祉法人あけぼの福祉会 石見龍也・広瀬茂一 69

海外動向
アメリカ合衆国における障害児の支援システムとインクルージョン−ハワイ州の取り組みを中心に
   吉利宗久(京都教育大学教育学部)・ジャクリーン・フィリップス(ハワイ大学教育学部)
連載
教育実践にかかわる理論的問題 遊び障害児教育における遊びの指導
  北島善夫(千葉大学教育学部)


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