障害者問題研究  第33巻第1号(通巻121号) 絶版
2005年5月25日発行  ISBN4-88134-264-9 C3037 

特集 自閉症・知的障害の「強度行動障害」   絶版

特集にあたって(PDF 397KB)  白石恵理子(滋賀大学教育学部・本誌編集委員)

「強度行動障害」と「動く障害児」  細渕富夫(埼玉大学教育学部)

 要旨 「強度行動障害」とは、著しい自傷、他傷、こだわり、物壊し、多動、パニック、粗暴などの行動が通常考えられない頻度と強さで出現し、現在の養育環境では著しく処遇困難なものをいう。「強度行動障害」はその人固有の障害ではなく、環境との関係のありように規定されている。「強度行動障害」のある者は施設入所もできずに在宅で悲惨な状況に置かれていた。そこでその支援のために厚生省心身障害研究に研究班が組織され、1993年、強度行動障害特別処遇事業が開始された。「動く重症児」の多くは要介護で歩行可能な重度知的障害児であるが、重症児の施設処遇の歴史的経緯から重症児施設や国立療養所重症児病棟に入所しており、彼らの一部は「強度行動障害」と重なり合う。今後「動く重症児」対策を進めるためには、「強度行動障害」との概念的関係を整理し、共通理解をはかっていく必要がある。
キーワード:行動障害、強度行動障害、動く重症児、重症心身障害児、療育

重度自閉症の行動と発達  白石正久(大阪電通大学)

 要旨:自閉症の障害としての軽重は、器質的要因によってのみ規定されるものではなく、発達障害と行動を媒介する社会的要因や人間関係の質との相互作用においてとらえる必要がある。本論では、内的条件としての発達障害を発達連関の特殊性としてとらえる視点、方法を紹介し、その発達障害に生活、教育などの外的条件がいかに作用するかを検討した。その作用の結果としての多様性、人格の個別性への配慮が十分でないと、行動の問題は深刻化しやすい。さらに、多様性の一つの典型例として、観察可能な機能レベルからは発達診断のむずかしい事例群を取り上げ、その診断の方法を紹介した。
キーワード:重度自閉症、機能障害、発達障害、発達診断

重度自閉症の思春期  中島洋子(旭川荘療育センター児童院)

 要旨:思春期は、自閉症児においてはより困難が大きい。重度自閉症は、知的障害の重度さ、自閉症特性の症状の重篤さ、その他関連障害の顕著さなどの重なりであるが、年齢や状況によって変化する。その行動障害は、@自閉症の基本的徴候、A早期行動症候群の合併、B思春期発症の精神障害、C生育史の4つの視点で分析できる。問題が重層化し一定度持続している場合を強度行動障害と呼ぶ。飯田雅子らの調査(1987−88)は強度行動障害の実態を明らかにし、その後、強度行動障害特別処遇事業が行われるようになった。筆者らの強度行動障害事例研究会で16事例を検討した結果、事業終了時は全例で行動改善が見られたにもかかわらず、その後33%超が悪化した。これは継続的なケアや療育が必要であることを示す。難治群では、強迫性障害、トゥーレット障害、気分変動など精神科的問題が増加しており、医学的知見を述べる。
キーワード:重度自閉症、思春期、強度行動障害特別処遇事業、思春期発症精神疾患


「強度行動障害」の研究と地域生活保障の課題  高林秀明(熊本学園大学社会福祉学部)

 要旨:本論は、事例と統計をもとに、具体的な生活実態から、「強度行動障害」の問題の本質を明らかにし、地域生活保障の課題を提起した。その際の基本的な視点(課題認識の方法)は、「強度行動障害」を単に個人と環境との相互作用の中でとらえるのではなく、社会問題としての生活問題に規定されたものとして把握するものである。「行動障害」のある人たちとその家族のかかえる生活や世話・介護の困難・不安は、基本的には、生活基盤の不安定さ、地域におけるつながりの乏しさ、必要な制度・施策の欠如によって生じる生活問題として構造的に生み出されている。そのような幾重にも重複した社会的不利に規定され、コミュニケーションの困難さに媒介されて、本人の思いや願いが「行動障害」というかたちであらわれているといえる。本人だけでなく家族の生活問題を視野に入れて、生活実態に応じた体系的な対策を整備することによって、たとえ行動面の困難さがあっても、人間としての権利が保障された地域生活を営むことができるのである。
キーワード:強度行動障害、課題認識の視点、生活問題、重複した社会的不利、地域生活保障のための体系的な制度


滋賀県における「強度行動障害」への支援の現状と課題  石井裕紀子(重症心身障害施設・第二びわこ学園)

要旨:滋賀県における強度行動障害を示す児・者の実態調査および重症児施設の精神科外来診療から、その実態と支援の現状および課題を検討した。行動障害の要因には発達障害が深く関わっており、形成過程の理解においても発達的視点を要するという認識のもと、各ライフステージごとに実態を分析したところ、いずれのステージにおいても量、質ともに必要な支援がなされておらず行動問題が拡大化されていくという現状があった。支援課題としてライフステージごとに実態に即した相談支援、生活支援、日中活動支援、医療支援が必要であること、さらに、各支援が生活者である本人と家族に対して総合的、有機的に提供されることが求められる。そのためには、各支援機能を専門性と地域性において1次、2次、3次機能として位置付けネットワーク化し支援を提供していく生活支援システムの構築が求められている。
キーワード:強度行動障害、実態調査、形成要因および形成過程、発達的分析、生活支援システム


実践報告
 
強度行動障害の仲間によりそって―Hさんの取り組みから見えてきたこと   
   
篠崎秀一(みぬま福祉会 太陽の里)

 成人期における療育活動および労働の意義と発達保障の課題
   ―唐崎やよい作業所における重度障害者や自閉性発達障害者への実践

   
山田宗寛(おおつ福祉会 唐崎やよい作業所)

実践報告を読む/「行動障害」「行動問題」を示す重度発達障害者への実践
  白石恵理子
(滋賀大学教育学部)

 要旨:知的障害者入所更生施設「太陽の里」、および知的障害者通所授産施設「唐崎やよい作業所」からの2つの実践報告を受け、「行動障害」を呈する重度発達障害者の実践について考察を行った。2つの実践では、「問題行動」やこだわりの背景にどのような困難さや発達要求が存在しているのかをみすえ、集団、家族、地域を視野に入れた発達保障実践を模索している。本論文では、発達的視点をもつとはどういうことかをおさえたうえで、青年期における「自我」発達の観点からも検討を試みた。そして、本人が自らの生活や要求の主体となる実践のあり方、集団を視野に入れて実践することの重要性、職員集団のあり方について考察を行った。
 本人と家族のライフサイクル上の課題からみたときに、家族のライフステージの危機に備え、本人の自立と発達を支援する社会的基盤づくりが早急の課題となっている。重度発達障害者においては、充実した日中活動が、密度高い人との関わり・支援の中で系統的・継続的に取り組まれることによって、はじめて生活の「豊かさ」の内実をつくりだすことが可能になる。
キーワード:行動障害、重度発達障害、本人と家族のライフサイクル、発達保障実践、職員集団


自由研究
 資料 中学校「通級指導学級(相談学級)」と不登校生徒の教育支援ニーズ
     ―ある都内中学校相談学級の10年間の卒業生・保護者の事例から
   
  菊地雅彦(東京学芸大学大学院博士課程/東村山市立東村山第三中学校)・高橋 智(東京学芸大学) 

要旨:本稿では、東京都内のある中学校通級指導学級(相談学級)の10年間の卒業生と保護者を対象に、相談学級の教育支援に対する評価やニーズについての調査を行い、相談学級の不登校生徒支援のあり方について検討した。調査対象は1987〜1996年度の10年間に相談学級に通級して中学を卒業した生徒71名とその保護者68名であり、調査は2回行われた。@卒業生と保護者が相談学級の経験をどのように評価し、いかなるニーズを有しているのかを明らかにする第1次質問紙調査(調査期間:1997年2〜3月、卒業生回収率57.7%、保護者回収率66.2%)、A卒業生の現況や社会的適応状況を明らかにする第2次質問紙調査(調査期間:1997年11〜12月、回収率61.9%)である。調査結果において特徴的なことは、不登校の予後が予想以上に良好で、卒業生が不登校体験を肯定的にとらえていたことであった。彼らは相談学級の教育体験を通して不登校や学校に対する価値観を転換させ、それが良好な社会適応につながっていると推測することも可能である。しかし不登校状態が改善されても、次のステップでつまずきやすいなど、社会への適応や自立は容易ではない。学校への復帰にとどまらず、その先の進路への移行支援や生涯発達支援の視点からの長期的な不登校支援システムの構築が不可欠である。
キーワード:不登校、中学校、通級指導学級(相談学級)、卒業生、保護者、ニーズ調査

書評 清水寛編著『セガン 知的障害教育・福祉の源流―研究と大学教育の実践』
      
大久保哲夫(奈良教育大学名誉教授)

連載 発達保障論をめぐる理論的問題(5)
学力保障論と発達保障論のあいだ  田中耕治(京都大学大学院教育学研究科)

障害者問題研究 バックナンバー

本号は好評につき絶版となりました。


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