障害者問題研究  第38巻第3号 (通巻143号)
2010年11月25日発行  ISBN978-4-88134-884-0 C3036  定価 本体2500円+税
特集 権利としての寄宿舎教育

特集にあたって
 障害児の生活と発達の保障をめざす寄宿舎教育の今日的役割/橋 智(東京学芸大学)

論文

戦後日本の障害児学校における寄宿舎問題の展開/大泉 溥(日本福祉大学特任教授)
要旨:戦後日本の障害児学校における寄宿舎を社会歴史的に問題として時期区分し,その時代的変化を特徴づけた.すなわち,1)時代が変われば学校の機能も変わるので,寄宿舎の存立は社会的に意義づけなければならない.2)寄宿舎の必要は学校の在籍人数確保の手段だったが,1960年代に住み込みから通勤へと勤務形態の転換を求めた教職員組合運動のなかで「生活指導」を中味とする「寄宿舎教育」という用語が生み出された.3)1970年代の養護学校義務化に向かい障害の重い子への対応が問われるなかで,1980年には寄宿舎教育研究会が組織され,「生活教育」の実践的検討が進んだ.4)「特別支援教育」政策の規制緩和で学校再編が進行して「寄宿舎消滅」の不安を生んでいるが,思春期から青年期に生起する特有の発達的問題への対応,社会的自立に仲間たちとともに挑戦する機会として寄宿舎の果たすべき役割があり,それが教育行政に必要な論理としての「合理的配慮」となるとした.
キーワード:寄宿舎生活,生活教育,発達的必要,寄宿舎の使命,合理的配慮


特別支援学校寄宿舎をめぐる政策・施策の動向―通学困難限定型の寄宿舎から地域の寄宿舎への再生
/永崎靖彦(京都府立高等学校教職員組合)
要旨:現在,寄宿舎は縮小・統廃合の渦中にある.それは「特殊教育制度」のもとでも進められていたが,特別支援教育時代に入り,その速度を増幅している.その根底には子どもの生活,発達を財政効率と教育投資に置き換えた新自由主義(教育の市場化)的障害児教育観に立った政策が横たわっている.今,寄宿舎教育の到達点や役割を学校全体,父母,地域に発信し,あらためて教育と生活に必要な場という地域の合意形成なしに縮減は止まらない.本稿では,権利としての障害児教育をどうすすめるかという命題のなかで,寄宿舎教育を権利としてどう政策化するのか,いくつかの地域の実態を検討し,運動的なスタンスから政策提言を試みる.
キーワード:縮小・統廃合,権利としての障害児教育,パラダイムシフト


全国寄宿舎併設特別支援学校(肢体不自由)の保護者・教職員調査からみた寄宿舎教育の役割と課題
/小野川文子(東京都立江戸川特別支援学校寄宿舎)・橋 智(東京学芸大学)
要旨:全国の特別支援学校(肢体不自由)寄宿舎に入舎している児童生徒とその家族の生活実態調査を通して,彼らの「生活と発達の貧困」の実態や寄宿舎教育のニーズを検討し,そうした困難・ニーズに対応していく寄宿舎教育の役割や課題を明らかにすることを研究の目的とした.全国の特別支援学校(肢体不自由)63校の寄宿舎利用の保護者,寄宿舎指導員,教員(舎監)を対象に郵送質問紙法調査を実施した.調査期間は2008年9月?11月.回収状況は保護者398人(回収率32.8%),寄宿舎指導員82人(69.5%),教員(舎監)60人(50.8%)であった.障害児の家庭生活は限られた人間関係と単調な生活を余儀なくされ,そのことが障害児の発達に大きな影響を与えているが,その問題はほとんど改善されず放置されている.また,障害児を支える家族の生活は,介助等に伴う身体的負担をはじめ,保護者が病気になっても十分な治療もできない状況,身近に相談できる相手もいない孤立した子育ての状況が浮き彫りになり,そのことが精神的負担となっている保護者も多い.その問題は子どもの障害が重ければ重いほど,あるいは経済的に困難であればあるほど深刻であることが明らかとなった.障害児の支援を行うためには,保護者の健康・就労問題を含めて,障害児家庭全体を総合的に支える支援が不可欠であり,障害児の発達の視点にたった生活支援が重要である.それゆえに,障害児の生活支援と発達支援の双方の役割を果たしている特別支援学校寄宿舎は重要な社会資源である.
キーワード:寄宿舎併設特別支援学校,保護者,生活と発達の貧困,寄宿舎の役割


高等養護学校における寄宿舎の役割と可能性―北海道の特別支援教育の現状から
/柴田久美子(北海道新篠津高等養護学校寄宿舎)
要旨:北海道には知的障害高等養護学校が14校あり,職業教育を行っている.12校ある寄宿舎併設校は,働く力とともに生活する力を育てる1日24時間の教育を行い,学校から社会への移行支援と卒後支援に力を注いでいる.ここ数年,高等養護学校への進学希望者の著しい増加で,大規模化の一途をたどっている.新入生の実態も変化し,発達障害や精神疾患を抱える生徒が増え,通常の高校を中退してくるケースもある.生徒の多くは,いじめや不登校を経験しており,子ども時代を子どもらしく生活できておらず,遊びや友だち関係を十分体験することがないまま育ち,主体性や自己の確立という点で弱さがみられる.しかし,親元を離れ,様々な他者と深くかかわる日々の生活の営みの中で,徐々に自己の形成へと向かう姿がみられる.高等養護学校の寄宿舎は,青年期に必要な自分づくりと自立への力を育てる可能性があり,特別支援教育においては,通学保障や生活保障だけではない新たな現代的役割を担っている.
キーワード:寄宿舎教育,特別支援教育,高等養護学校の寄宿舎,思春期・青年期,自分づくり,自己の形成,自立,寄宿舎の現代的役割



実践報告

視覚特別支援学校におけるセンター機能と寄宿舎の役割/藤田幹彦(大阪市立視覚特別支援学校寄宿舎)

「子どもを大切にする寄宿舎」をめざして―滋賀県の障害児教育「再編整備」の中で設置された知肢併置寄宿舎/能勢ゆかり(滋賀県立野洲養護学校寄宿舎)

心身に悩みをもつ子どもたちを受けとめて/木村由美(東京都立久留米特別支援学校寄宿舎)

寄宿舎教育を守るために―沖縄県における寄宿舎廃舎計画撤回の取り組み/島尻澤一(沖縄県立沖縄高等特別支援学校寄宿舎)


本人・保護者の思い

寄宿舎への思い/桝川 明(盲学校卒業生・落語家)

子どもが育つ,親が変わる,みんなの寄宿舎/荒井美麻(京都府立丹波養護学校保護者)

寄宿舎は友貴と家族の心の支え/石原幸子(埼玉県立特別支援学校坂戸ろう学園保護者)


【実践報告】
中学校教員と障害者通園施設職員による不登校生徒への支援―中学校と障害者施設の共存の場から/飯田 茂(札幌市立中央中学校)
要旨:中学校と障害者施設の共存は全国的にも数少ない.この共存はさまざまなつながりと連携を生み出している.本稿は,中学校教員と障害者通園施設職員による不登校生徒への実践である.
キーワード:中学校,障害者施設,共存,不登校生徒,交流

【連載 なぜ今歴史研究が求められているか】(下)/藤本文朗(滋賀大学名誉教授)


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