障害者問題研究  第39巻第3号 (通巻147号)
2011年11月25日発行 ISBN978-4-88134-005-9 C3037  定価 本体2,500円+税
特集 乳幼児期の療育と子育て支援

特集にあたって=住民とともにつくる療育システム  白石正久(龍谷大学)

論文

障害の早期発見・早期対応の意義と課題  近藤直子(日本福祉大学)
要旨:障害者に関する諸制度の見直しのための総合福祉部会「障害児支援」合同作業チーム報告書からは,「障害の早期発見」という用語が消えているが,障害のある子どもに対する支援の開始を意味する「早期発見」の意義はどこにあるのだろうか.そのことを明らかにするために,全乳幼児を対象とする「乳幼児健診」が成立し発展してきた経過を踏まえ,障害の発見がその後の子どもと家族に対する支援とどのように結びついてきたのか,どのように結びつくことで本来の意義が発揮されうるのかを検討した.「障害の発見」を,単に「発見」で終わらせること無く,子どもと家族に対する支援を意味する「早期対応・早期療育」の充実と結びつける仕組みを自治体がもつことによって,親子は地域で安心して暮らしうるのである.

子ども・子育て新システムと障害児の保育 ―子どもの権利保障の観点から
  伊藤周平(鹿児島大学)
要旨:政府が2013年度から導入を予定している「子ども・子育て新システム」の目的は,幼保一体化や待機児童の解消というより,増え続ける保育需要に対して公費をなるべく支出しないで対応できる仕組み(つまりは,公費を抑制し保育を市場化するための仕組み)を構築することにあり,その本質は,市町村が保育の実施義務を負っている現在の保育制度を解体し,介護保険や障害者自立支援法のような直接契約・利用者補助方式に転換するものにほかならない.本稿では,先行して直接契約・利用者補助方式が導入された障害のある子ども(障害児)の療育の現状を踏まえつつ,あらためて新システムの本質と問題点を指摘し,市町村の保育の実施(現物給付)義務を維持・強化し,療育についても市町村が実施義務を持つ仕組みに戻すことが,障害児も含めて子どもの権利保障のための最善の道であることを明らかにする.

大津市における障害の早期発見と療育システムの考察 
 ―要発達支援児への療育システムの試みを中心に 西原睦子(大津市立東部子ども療育センター)
要旨:乳幼児健診は当初から障害の早期発見だけでなく社会的子育ての窓口として機能し,その後の対応のシステムや子育て支援施策を切り拓く役割も担ってきたが,近年の行財政改革や社会福祉基礎構造改革はその発展を阻害する方向に働いている.そこで,まず地域保健法や障害者自立支援法の施行などの法改正や保健福祉予算の一般財源化などの国の動きが,地方自治体の施策にどのような影響を及ぼしたか,大津市の経過から報告する.そうした状況でも自治体施策により,法改正や国の施策の積極面やタイミングを活用して,地域で一貫した乳幼児健診や療育のシステムをつくる契機にすることは可能である.続いて,要発達支援児への対応を開始した経過とシステムの再構築の試みについて,大津市の経験を報告し,乳幼児期の発達保障について地方自治体が果たす役割を検討する.

総合通園センターにおける「チーム療育」のための条件整備
 塩見陽子・大政里美(広島市こども療育センター)、小川裕子(広島市西部こども療育センター)
要旨:広島市の障害児支援の歴史は,「発達保障」を早くから掲げ,質,量とも全国に誇る条件整備を,市民との共同の取り組みの中でつくり,発展させてきた.その中で,現在3つの療育センターが地域に根ざしており,医療と福祉が一体となった運営のもと,障害や家族状況に応じた支援が,早期からシステム化されている.特に,乳幼児部門では,ライフステージを見通した総合的な支援がなされている.そのための体制づくりとシステムを示し,チーム連携のもと行われている事例として2例紹介する.

障害のある乳幼児を育てる母親の就労をめぐる問題 
 ―母親へのインタビュー調査から  丸山啓史(京都教育大学)
要旨:障害のある乳幼児を育てる母親の就労保障という観点から,59人の母親を対象とするインタビュー調査をもとに,母親の就労に関して注目すべき問題を提示した.@障害のある子どもを連れて療育機関に通わなければならないことが母親の就労を制約している.A祖母などによる援助があることで母親が就労しやすくなっている.B子どもを保育所に入所させるために仕事を始めた母親が多い.C障害のある子どもの母親が就労することに対して否定的な意識がある.最後に,障害のある子どもの母親に対する見方の転換が必要であることを論じた.「母親は子どものケアの良き担い手であるべきだ」「母親は子どものことを優先すべきだ」という見方について,問い直しが求められる.

動 向
改正児童福祉法における「障害児相談支援事業」の問題点  中村尚子(立正大学)

実践報告
早期発見から就学までの地域ネットワーク  荒木清和(大東市立療育センター)

療育施設における地域に根ざした就学支援
  樋口範子(地域療育センター すぷら)、大石明利(東遠学園)

障害児療育等支援アドバイザー事業に基づく障害児支援  和歌山県障害児運動連絡会

堺市の通園施設における保護者の状況と保護者支援の課題  高橋真保子(堺市第1、第2つぼみ園)

資 料
就労継続支援事業(A型)の新機能と実態 ―全国調査結果の分析から
  伊藤修毅(立命館大学大学院)

書 評
大泉溥編・解説『日本の子ども研究―明治・大正・昭和 第13巻 田中昌人の発達過程研究と発達保障論の生成』 ― 発達理解の「落とし穴」は克服されたのか   井上洋平(奈良教育大学)

障害者問題研究 バックナンバー

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