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2001年12月号
FILE.9
  スウェーデンで見たIT利用

オーセさんご夫妻
オーセさんご夫妻
HI(The Swedish Handicap Institute)  http://www.hi.se/
障害者の生活の質の向上めざし、ITの活用によって、仕事などの社会参加を積極的にはかるため、調査、開発、研究を行なっている組織。さまざまな専門家など90名のスタッフがいる。

  90年代のはじめ、スウェーデンもバブルが崩壊しました。マイナス成長が3年続き、失業率は93年に8%を越えたといいます。しかし、この10年で景気回復と財政再建に成功し、世界的な大不況の「絶望の海」に浮かぶ「希望の島」と称えられています。その秘密は、ITやサービスなど新産業への支援と教育による人々の能力の「底上げ」だというので、障全協の北欧地域支援施策調査団に同行して、現場を、そこで暮らしている障害者の生の声を聞きました。

                 *

 地下鉄の駅から歩くと3分ほどのところにある11階建てのアパートの5階にオーセさんを訪ねました。彼女は、重度の脳性マヒ者です。言語障害があるので、彼女の言葉をわかりやすく通訳してくれる男性と待っていてくれました。ストックホルム大学でITを学び、いまはHI(注)のスタッフとして働いています。

 アパートは電動車椅子利用の彼女と同じ職場の同僚でもある全盲者の夫が利用するため、平均的な住宅より少し広いそうですが、日本の感覚からすると、すごく広いものでした。オーセさんのパソコンルーム、彼のパソコンルームがそれぞれあります。

 仕事は自宅でなく、それぞれがHIの事務所でするそうで、最寄り駅にはエレベータはあるが、事務所のある駅にはないので、エレベータを付けないのは自治体の責任だからと、自治体が費用を負担するタクシーで週5日通っているとのこと。仕事の内容は、当事者から、「どうしたらITが使えるか」「どんな補助器具があればいいか」などの相談に応じたり、どう使われ、どう満足しているのかなどをチェックするのだそうです。

 右足でマウスを操作し、パソコンを使うところを見せてもらいました。自分用の補助具のアイディアはオーセさんのもので、作ったのは地域の補助器具センターの責任で委託された補助器具会社とのこと。障害者の「移動」の保障、「補助器具」の保障を国の法律で定めている北欧の実態を垣間見た気がしました。

 インターネットは集合住宅のケーブルテレビ回線を利用しています。常時接続で、電話代と同様に自分で支払っているとのことでした。所得保障(障害者年金)がしっかりしていて、働くことができるならば、自分で払うのが一番でしょう。

 94年から実施されているLSS法(機能が満足でない人のための扶助とサービス法)によって「パーソナルアシスタンス」を雇用することができるようになったのは、オーセさん夫妻の暮らしの確かな支えでもあるようでした。24時間、交代で勤務するパーソナルアシスタントたちは大学生であったり、若者が多そうでした。文書を読み上げたり、メールをだしたり、情報収集や発信は自分でパソコンを使って行うが、できないことはパーソナルアシスタントの手で行われる。IT含めた生活の基本的な部分がじつに安定していることを強く感じました。

                *

 知的障害者に対しても、生活に根ずいたITのとりくみにも接しました。

 ストックホルムのビジネス街の小さな喫茶店は、知的障害者のデイケアセンターで、レジを担当する女性は、画面に出てくるメニューの写真を指で押し、表示される釣り銭を一対一対応で処理していました。

 このシステムは、横浜のリハエンジニア・畠山卓朗さんとスウェーデンの共同研究によってわが国でも一部で実用化がはじまっていますが、別の日に訪ねた小学校跡地を利用したレストランでも、同様のキャッシュレジスタを使う知的障害のある若者たちを見ました。レジには担当者の顔写真が表示され、その顔写真を指で押すと、担当用にプログラムされた内容でわかりやすく機能するのです。
                 (次回はデンマーク編)

(文・写真/薗部英夫・全障研事務局長)

キャッシュレジスター


知的障害者も利用できる
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