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2001年6月号
FILE.3
 恩恵ではなくあたりまえのこととして
    聴覚障害者・高岡正さんの場合


 「20時ころ調布駅で会いましょう。私のPHS(携帯電話)メールアドレスです。1000字までくらい受信できます」。難聴者の高岡さんから電子メールをいただきました。携帯電話で親指を器用に動かしメールをやりとりする青年たちの姿はおなじみとなりましたが、聴覚障害者同士や聴者とのコミュニケーションの道具にもなっていることを実感しました。インタビューの日、仕事をようやく切り上げた高岡さんとPHSの文字メールのやりとりで、駅前で待ち合わせしました。

----「情報アクセス権」という言葉をはじめて聞いたのは80年代の聴覚障害者の運動でした。

高岡 難聴者や中途失聴者は毎日が自尊心と屈辱との闘いです。聞こえない自分は何か、なんで自分は生きているのか、いつも問い続けます。毎日の生活と働く場所でのコミュニケーションの壁は大きいんです。「情報アクセス」は、生きるための権利です。移動障害者にとっての「アクセス権」同様、自分が自分であること、自分の存在を認めるために必要なんです。

----阪神大震災の際、全日本ろうあ連盟とともに手話と字幕のニュース放送を強く要請されましたね。

高岡 99年の東海村臨界事故では、聴覚障害者がニュースの内容を理解できないまま外出してしまいました。ようやくNHKは2000年3月から夜7時のニュースの字幕放送をはじめ、今年4月からは9時台のニュースにも拡大しました。
 我が家では私も家内も難聴で、おばあちゃんも補聴器を使っています。子どもは生まれたときからテレビには字幕があるもんだと思っていて、字幕があるだけで家族の会話が成り立つんです。字幕がないとよく説明してくれています。
 しかし、字幕放送はNHKで17%、民放では3%です。北米に輸出する日本製のテレビには文字放送のデコーダーが付いているのに、日本向けには付けない。

----北米と日本との違いはなんですか。

高岡 アメリカでは字幕制作費は番組制作費の当然のコストと考えています。しかし、日本ではテレビ局の「持ち出し」という考え方です。テレビ局は今不況の中でも莫大な利益を上げていますし、字幕制作費は番組制作費の数%しかないのに、支出を渋っています。
 これは、テレビ局が「マイノリティ」に対する恩恵的サービスと考えていることが背景にあるのではないでしょうか。そうではなく、高齢者化社会の中で聞こえない人は相当な比重を示す。字幕放送はたくさんの人にも役立つ。環境コストと同じように、必要だというように考え方を変えることが必要です。
 それと「努力義務」でしかない国の規定を、法律として「義務づけ」していくことですね。

----スウェーデンでは総選挙の開票速報は手話を使うキャスターが中心でした。

高岡
 北欧では、手話が准国語として採用されているし、手話を使ったニュースを障害者団体が作りそれをテレビ局が買い取るんです。日本でも、私たちがプロダクションになって「字幕と手話付きの番組を作るから、買い取って放送してほしい」というとりくみをはじめてます。
 また、全難聴はリアルタイム字幕配信事業者の指定を受けていますが、全国25か所の聴覚障害者情報提供施設が予算化されていますので、普及にはずみがつくことを期待しています。

(文・写真 薗部英夫・全障研事務局長)


全難聴
 http://www1.normanet.ne.jp/~ww100090/
全日本ろうあ連盟
 http://www.jfd.or.jp/
リアルタイム字幕配信事業
 http://www.normanet.ne.jp/~ww100090/rtcap/index.html

たかおか ただし


1951年横浜市生まれ。乳児のころ難聴に。農業工学を大学院で学ぶ一方、パソコン通信で同じ聞こえない青年たちとの交流を深め、上田敏さんの「リハビリテーション」は「全人格的復権」という言葉に勇気づけられ障害者運動に。現在、食糧メーカー会社員として物流部門を担当。社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会(全難聴・会員4000名)理事長。総務省などのIT関連委員も務める。忙しくて一日のメールに応えきれないのが悩み。
高岡正さん

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