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2001年5月号
FILE.2
空を飛びたい
 長期入院患者・石沢雄二さんの場合

パソコンにむかう石沢さん
  やわらかな春の光がカーテン越しに差し込む昼下がり。彼のベッドサイドには、「MSDOS」「Cプログラミング」などパソコン専門書が数冊。熱気球の写真カレンダーが一つありました。

 千葉市から成田空港方面に向かって2駅目が「四街道」。明治期に陸軍砲兵学校が置かれ整備された街です。駅のそばにある国立療養所下志津病院の第6病棟が筋ジストロフィー症患者・石沢雄二さんの暮らしの場です。道路沿いの日だまりにオオイヌフグリの群生が目に入りました。

 30歳で入院してから8年目。この日はボランティアの岡さんと電動車椅子に乗って正面玄関まで迎えてくれました。

---病棟でどんなふうにパソコンを使っているんですか。
石沢 93年に筋ジス協会(注@)にパソコン通信「夢の扉」ができて、94年1月からここでもパソコン通信が使えるようになりました。共同利用のプレイルームに電話回線を1本引いて、数人で利用します。私のパソコンは秋葉原価格なら1万円程度の旧いノート型で、割り箸をくわえて、キーボードの使う数が少ないのでローマ字で入力しています。電子メールはこれで使えます。音声入力も使えそうですが周りに大勢人がいるので遠慮します。「日常生活用具」制度は申請が面倒だし、やれあの店でなきゃだめだとか制約が多すぎます。それに、私の部屋は二人部屋ですが、普通の病院と比べるとそれでも広い方ですが、テレビも共用だし、車いすにベッド、呼吸器、それに細々としたものがあるとパソコンって置く場所がないんですよ。
 
---ボランティアとの出会いもインターネットだったとか
石沢 車いす生活でも楽しいことはしたいし旅行にも行きたいです。そのために介助ボランティアは必要なんです。インターネットを使って「あなたの力を貸してください」と、はじめてボランティアを募集したとき、最初に来てくれたのが岡さんです。3年半のつきあいです。若いのにコンピュータや外国語にも詳しい方です。秋葉原に買い物とか、10泊10日の強行軍の北海道旅行にも同行してくれました。去年は気球にもいっしょに乗りました(注A)。

---えっ!気球って?熱気球に乗られたんですか?
石沢 病院に暮らしていると「無理だろう」「できないだろう」ってことが多いんです。「四街道の街から外出するには2人のボランティアといっしょでなければならない」という規則もあります。自由になれるなら、空を飛べたらなあ、と単純に思って。重症患者でも車いすで空を飛べる。自分のやってることが少しでも社会のためになれば、そんなにいいことってないじゃないですか。そして、どうせ乗るなら外の空気を肌で感じられる乗り物をと。そうやって考えてインターネットで調べると熱気球しかなかった。
 熱気球関係者のパソコンネットに私の希望を言うと、頸椎損傷でパイロットされてる方、車いすでも乗れる特性のゴンドラ情報を知ってる人とか全国各地から意見を寄せてくれました。ただ、着陸時のショックが相当なもので、頸椎や脊髄を圧迫骨折するかもしれない可能性もあり、みんな知恵を出してくれて、何度もテストをしてくれました。それもみんな電子メールでのやりとりでしたね。
 不思議なものです。普通なら到底会いもしない人たちがインターネットで出会い、そして直接つながっている。みなさん個性的な方ですよ。その一人に陶芸家がいて、先日は笠間市に陶芸を習いに行ってきました。

---ITで望むものは?
石沢 人と会いたいから、人とつながりたいからITを使う。出会いはみんなインターネットだった。だから電子メールが自由に使える環境が欲しい。PHSの利用研究含め、通信環境があれば、そこに教えてくれる人がいればなんとかできる。

                      (文・写真 薗部英夫・全障研事務局長)



遊水池を眼下にして 石沢さん いしざわ ゆうじ

1963年建築業を営む家庭に生まれ、機械いじりが大好きな少年時代を過ごす。建築関係をめざすが、高校在学中に筋ジストロフィー症を発病。筋力が衰えてくる難病のため、現在は首と指先で電動車椅子やパソコンを操作する。パソコン歴は20歳の頃のMZ2000時代からのベテラン。
写真上
渡良瀬遊水池(茨城県)で熱気球に乗る石沢さん
写真右
ガスバーナーの熱風で膨らませる。
(以上2点 石沢さん提供)

注@ 日本筋ジストロフィー協会
http://www.jmda.or.jp/
注A ZAWAさんと空へ旅たつ 
http://www.246.ne.jp/~kitaro/volunteer/index.html
熱気球を膨らませるのを見ている

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