デンマークの確信<4>
機器・ひと・集団



ミゼルファートはオーデンセのあるフュン島(島で一つのアムツ=県)の西端。細い海峡の向こうにはドイツから大陸へとつづくユトランド半島が広がっている。人口1万8千人。トイレを借りようと市役所を訪ねたら、金曜日の3時には閉まっていた。(金曜日3時過ぎたらみんな仕事はしないのだ)

市役所の側のアパートに一人暮らしするMikkel(ミケイル)を訪問した。
彼には3年前にITを活用して一人暮らしする青年として、つぎのレポートを書かせてもらった。
 http://www.nginet.or.jp/~kinbe/SAS/sedk2001/sedk20014.html

彼もどこか体型や顔立ちが似ている日本人としてわたしのことを覚えてくれていたようで、うれしい再会となった(写真)。
 似たものどおし?頭には日本手ぬぐい

彼は、32歳になった。
5人のヘルパー(3人女性、2人男性)が24時間の交代制でヘルプする。
ヘルパーが寝泊まりする部屋が隣にある。

3年たつと人の雰囲気は変わるもののようで、彼のパソコンも富士通製からIBM製に変わっていたが、進行性の難病だから、身体がちょっとだけ小さくなったかなあの印象(オレの方が大きくなったのか(^^;))

それにもまして、彼の印象がじつに明るくなった。
「この帽子のロゴはぼくのデザインのアイデアさ」
とパソコンでイラストした「金の手」のしゃれたロゴデザインを見せてくれる。
ポールマッカートニーの来デンマーク公演のときには愛車の赤いワゴン車で3時間はかかるコペンハーゲンまでいったと笑う。

 ○●○

ミケイルの部屋に入れる人数は知れているので、旅の仲間たちはローテーションで彼と対面している。アパートの前の小さな庭にあった日の当たるベンチに座りながら、わたしのパソコンの師匠すじにあたる友人との語りとなった。この10数年、日本に「パソコンボランティア」という障害者のIT活用支援の自主的なネットワークづくりをともに担ってきた同志である。
 赤い屋根のアパート
 ▲ミケイルのアパート、裏は海峡
 
つくづく思う。
ミケイルのような障害は重いが自分の意志がはっきりと出せる人の場合、支援のかたちはいろいろできる。視覚や聴覚障害の場合も同様だ。ヘルパーのなかでITの得意な人もいれば、町の補助器具センターの作業療法士さんで手に負えなければ、国レベルの研究機関もオーフス市にある。機器の開発や調整は、北欧はまさに最先端をいっているから技術屋さんも多い。

とすると、行政(国や県や市)の役割はなにか。
それは、根本的な「幹」をしっかりつくることだろう。
すなわち、専門家の育成、その専門家が働ける場づくりだ。これは国の仕事だろう。
たとえば、大学教育のなかでの養成、卒業後の専門性を活かして働ける職場の創造。このあたりが本格的にとりくまれなければ「幹」は太くならない。

では、日本で言う「ボランティア(=パソボラ)」の役割はなにか。
わたしは、活動などの自由を担保しながら、それぞれの個人ないしグループが独立しながら、他の個人やグループと連帯する、まさに地域づくりの自主的、主体的な活動ではないかと思っている。

ITの利活用には障害者自身の意志と努力が必要だ。それを支え、その活性化をうながす人たちとその場がなければならない。そしてそれらの活動の相談に応えてくれる専門家との連帯が必要なのである

こうしたことはひとりぼっちでいたのでは、なかなか起こりずらい。さまざまな形態や規模の集団の場があることが決定的に大切なのだ。

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コペンハーゲン県にあるサンドトフテン作業所(300名)を視察したとき、インターネットラジオ局を運営してるグループ(13名)が楽しそうに、編集作業をパソコンでしていた。
 
地元のラジオ局の番組で有名人のインタビューを収録したり、(障害者からの依頼には有名人はよく応えてくれるのだそうだ)。番組をインターネットでも聞こえるように再編集している。自前の編集スタジオもある。全作業所内のインターネット環境もメンテナンスしているそうだ。
 ラジオ収録・編集のためのスタジオ

「デンマーク語だけじゃなく、ぜひ日本語でもオンエアーしてよ」
とわたしが言うと、
現場責任者の陽気な東洋系の顔立ちの男・ケネットさんが、
「陶芸のクラスには日本から来た陶芸家のチエコもいるし、本気で考えようかなあ」

適切な仕事があり、専門性をもった指導員がいれば、もちろん安定した生活のバックボーンをもちながら、こんなふうに楽しみながらITが仕事になっていると嬉しく感じたものだ。
ここには、ここちよい濃密な集団の場があった。

PS
旅の友としていた本=茂木俊彦『発達保障を学ぶ』(全障研出版部)
第9章「能力の低下と発達」の「生活・活動の活性化 人格の豊かさの獲得」
の指摘に触発されています。

 人魚姫の像
         ▲人魚姫の像

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