睡眠時無呼吸症候群とわたし

眠い。
ただただ眠い。

目をつぶれば数秒で完全に寝る。
通勤電車では、つり革につかまり立ちしたまま寝ていた。

車を運転していると3分で眠くなる。
高速道路では記憶のないまま運転して何度か死にかけた。
人と話をしているとき、相手の口元が霞んだと思ったら寝ているのだ。

高いところが怖わかった。
エスカレーターに乗ると脂汗が背中から吹き出した。
池袋西口にある東京芸術劇場の5Fまで直行する
長いエスカレーターには怖ろしくて乗れなかった。
ある日、当時小学生の娘と二人で遊園地の大観覧車に乗った。観覧車がてっぺんに着く前に、怖さのあまり呼吸困難になり、娘にしがみついていた。

夜中、何度も何度もトイレに起きる。
のどが渇く。
2時間と連続してして眠れない。
朝、起きると自分の脳細胞が確実に死滅しているのではないかと感じた。

職場でけっしてさぼってはいない。
むしろ、必死でがんばっている。
なのに、数分パソコンの画面を見ながら、
自分で”眠ていたかな”と感じたら、
じつはそれは数分どころではなく数十分だったと、
だいぶ後になってから同僚に聞かされた。

職場の視線が痛い。
オレはがんばっている。精一杯がんばっている。
なのになんだ。この眠気はなんなんだ。
疑心暗鬼もどんどん広がる。

だめだ。
もう限界だ。
もうだめだ、、、、


こうなる4年ほど前。
ある合宿研修会の際に、わたしの猛烈ないびきとともに、
「途中で呼吸が止まっていて怖かった」
と同室者からいわれたことがある。

25歳を越えた頃から毎年体重は比例線を描いて増え続け、
昔のTV番組で西田敏行が主演した「池中玄太80キロ」なんて体重を
とうにバカにできない体型になっていた。

でも、毎年の健診では「脂肪肝」との指摘は受けたものの、
その他に特別な問題もなく、40歳を越えていた。
中学時代にサッカーでけっこう鍛えた体力には自信があった。

しかし、猛烈ないびきと無呼吸は、わたしのパートナーは
その異常さを、すいぶん前から感じていたのだそうだ。
「何度も言ったけど、あなたは気にもしなかった」
とずっとあとになって言われた。

そして私は二つの医療に助けを求めた。
43歳、1999年晩秋から2000年の早春の頃だった。

一つは東洋医学・鍼治療だ。
信頼できる先輩から紹介された南浦和のM先生は、
人間的にも尊敬できる東洋医学の名医で、
受診するまでは正直半信半疑の鍼灸治療だったが、
週一回の治療によって心身共に絶望の淵から、
少し浮上できるような希望を感じることができた。

もう一つは西洋医学だ。
職場の同僚の強いすすめで、肥満を抑制するために短期入院した。
しかし、入院したその日、6人部屋から個室に移された。
横になればすぐに寝てしまい、室内にいびきが響き渡り、
同室の患者たちから猛烈なブーイングがあったようだ。

担当のM院長は、
(偶然であるが、東洋も西洋医学もファーストネームが同じ先生だった)
「いびきがすごいね。寝ているときの酸素量もはかろう。
 耳鼻科は受診してますか? したほうがいいな」
と、一日の酸素取得量を計った。

耳鼻科では、ファイバースコープを鼻に入れられて、
モニターの画面を見せられながら、
 1)花粉症による鼻のつまり(はれ)がある
 2)「のどちんこが大きい」と指摘された。

しかし、M先生からいびきと酸素量の異常から、
まだ保険適用がはじまったばかりの「睡眠時無呼吸症」の
専門クリニックの受診を強くすすめられた。
「睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)」。
その聞き慣れない病名をはじめて知った。

水道橋に出来たばかの専門クリニックに電話すると、
3か月先まで予約が一杯だった。
ようやく予約できた1泊の調査の後、つぎのような調査結果が出た。

重症の睡眠時無呼吸症候群。
睡眠時無呼吸は、一晩(7時間)の睡眠中に
10秒以上の無呼吸が30回以上おこるか、
または、睡眠1時間あたりの無呼吸数や低呼吸数が5回以上おこる
こととされるが、
私の場合、一晩の無呼吸は601回。

総合判定は、
1)非常に重度の睡眠時無呼吸があり(1時間あたり77回)、
すべて無呼吸である。
酸素飽和度の低下も著しく、その最低値は32%と低く、
90%未満が96%を占める。
2)総睡眠時間は7.8時間であったが、睡眠分断が著しく、深睡眠がない。覚醒指数は82回/時と非常に高く、その99%が睡眠時無呼吸によるものである。

「あなたは眠れていないのだから、本当につらかったでしょう」
と院長にいわれて、おもわず涙がこぼれた。
(この院長先生は、日本の精神医学界の大御所の秋元波留夫先生の門下であったことを
秋元先生の白寿を祝う会の席でお会いして知った)

二度目の一泊検査は、鼻マスク(写真参照)を装着してのテストだ。
シーパップ(CPAP:持続陽圧呼吸療法)で睡眠すると、
てきめん、翌朝の世界がみちがえたようにさわやかで、
なんとも爽快な朝をむかえることができた。

シーパップの装置
 シーパップの装置(鼻マスクと空気を送り出す装置)
  花粉症の季節や夏のベトベトした季節、冬の空気が寒くなったときなどは
  ちょっとした工夫が必要だが、見た目よりは、使いかっては悪くない。


検査所見の要約は、
1)無呼吸指数は77回/時から10回/時に減少。
酸素飽和度の最低値も32%から72%に改善し、
90%以下が睡眠時間に占める割合は96%から11%に減少した。
2)総睡眠時間は7.8時間から8.7時間に増加。
総覚醒指数は6回/時へ激減している。

これならば、だいじょうぶだ。
そう思えた。

この病の原因は、
肥満による気道への脂肪沈着(ようは太りすぎで気道が圧迫される)
とも関連があるといわれる。
一方、30%は非肥満者で、遺伝的、後天的に上気道が狭いことも
原因の一つだそうだ。

酸素不足は循環機能に負担をかけ、
不整脈、高血圧、心不全、糖尿病などがあらわれ、
事故や突然死などで生存率が低くなるとのこと。
数年前、山陽新幹線の運転手のいねむり事故で社会問題になったが、
日本では200万人の患者が推定されるそうだ。

最近、私の近しい友人にも数名。私がその患者と知った友人の友人の
相談などもよく受けるようになった。

痩せればいいとよく言われるが、
そうそうすぐに痩せられれば悩みはないわけで、
太っていても現代社会を生きていかねばならないわけだから(^^;)、
シーパップ治療は、じつに福音だ。
この病気は、ちゃんと診断を受け、科学的な治療を受ければ、
社会生活はまったく問題はなくなる。

ただ、医療費3割負担の影響は確実に寄せている。
シーパップ治療には月に一度の受診が必須だが、
医療費2割時代は3000円台だったのが3割負担で5000円台に。
それに少し血圧が高いとになると、
その薬代ももちろん3割負担で3000円くらい。
それで元気に働けるわけだから安いとおもえば安いし、
でも、負担だなと感じるのも正直なところ。

また、シーパップで困るのは、ちょっとした出張や海外旅行(^^;)
SPAP装置は小さくなったといっても、ランドセルくらいの大きさだから、
けっこうな荷物。
でも、一泊でも必ず持って行かないとてきめん自分の調子が悪くなる。

それと、枕元に電源がないと困るのだ。
国内出張では延長コードは必需品だし、
海外ではその国々の電源プラグは絶対に忘れられない。

ふと、大地震などがあって、数週間ライフラインが止まって、
電気がこなくなったとき、
オレってどうなっちゃうんだろうと、心細くなるときもある。

また、テロ警戒の時節柄、「プラスチック爆弾」などと間違えられなければいいなあと、
主治医には英文で「これは医療機器だ」と一筆書いてもらっている。
(いまのところ2度の北欧旅行では問題はなかった)

とにもかくにも「睡眠無呼吸」と「高血圧」とはけっこうお友達なので、
睡眠と血圧は気にしている。

東洋医学の鍼治療もいまは2〜3週間に一度のペースで、
体調維持のために続けている。
私には西洋も東洋の医学も必要だ。

シーパップ治療をはじめて4年目。
一晩中空気を気道に送り込んで、気道を確保しているので、
呼吸器系に無理もかかる感じなので、
東洋医学の治療ポイントは「呼吸器系」の内なる力の維持だ。


(2004年8月末 記、9月末 修正)
参考文献
 成井浩司『睡眠無呼吸症候群のすべて』三省堂、2003年
 井上昌次郎『睡眠障害』講談社現代新書、2000年
 堀忠雄『快適睡眠のすすめ』岩波新書,2000年

参考WEB
 ○いびきと睡眠時無呼吸症候群について
  http://ibiki.net/index.htm
 
 ○日本医科大学第4内科(Q&Aやいびきの音声もあり)
  http://www.nms.ac.jp/NMS/4med/sas/

わたしの受診しているクリニック
 
 ○睡眠呼吸障害クリニック
  http://www.suiminclinic.com/
  電話 03−3556−9181
  東京都千代田区三崎町2−18−11 2F

 代々木睡眠クリニック(上記の提携のクリニック)
   http://www.somnology.com

 ○鍼治療院(南浦和駅のそば)は直接私にメールください。


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