学校U


96/07/24 00:51:15 NGI00001 映画「学校U」

山田洋次監督の映画「学校U」の試写をみた。
すぐにことばがみつからず、おもわずガッツポーズしてしまった。
あえてたとえれば、野茂や伊良部のような豪速球を山田監督が投げてきた。
それに自分の感性はどう受けとめられるのか。
この映画、そんな真剣勝負のような出来映えだ。

3年前の「学校」は夜間中学が舞台だった。
山田監督がじつに20年以上あたためていたライフワークともいえるテーマを
2時間というある日の授業を、映画と観客が時間と空間を共有する、
その映画的な場のなかで、幸福についていっしょになって考えあった。

今回の舞台は北海道の小さな街の養護学校。
前作のキーワードを「幸福」とするならば、
今回は、一人一人は違うもの、そして一人一人が、
生きること、学ぶこと、働くことを大切にされなければならない、
それが「権利」だ、というように私には読みとれた。

山田監督は 「学校や教師にとって都合のよい生徒をつくるのが教育なのではない。
  子どもを教え導くのではなく、子どもによりそってやるのが教師の仕事では
   ないだろうか。障害児教育の現場を舞台にして、学校や教師にかけた夢を
   生き生きと楽しく、時としてしみじみと描きたい」
とパンフレットによせている。

しかし、映画は総合芸術だ。
事前にシナリオを読むことになったのだが、シナリオの行間が、
数秒のシーンで、いっきに広がりと厚みをみせてくれる。

とりわけ画像で印象的なのは吉岡秀隆くん演じる高志の住む町・留萌の海、
北の海の荒い波、うみねこたちの舞うなか、
こころをかよわせていく高志と西田敏行演じるリュー先生これはじつに美しい絵だ。

また、シナリオでは
 「天井の四角い窓の外に見える青い空  ーそこに鮮やかな色彩のバルーンが
 浮かんでいる」とあるけど、
これは一面雪景色の美瑛の丘でのロケ。

一面白の世界に、高志たちの赤いマフラーが動きながら、
そして巨大な熱気球のオレンジや黄色。
北海道への監督のこだわりもすこしわかる気がする。

そして、感動のラスト。
「息子」で主人公を熱演した永瀬正敏の若先生が、
卒業式でみんなが泣いている中で「泣くのはやめよう」と
明日からの社会人として、毎日が闘いだとのべるシーンに、
さっと、まるで「神の手」のように生徒の資子から永瀬にやさしい手が伸びる。
すると永瀬はめろめろになってしまう。
画面のはじで、資子を優しく抱きしめる西田先生。
これはシナリオにはない。

資子さんは、ロケ地の養護学校を今年卒業したそうだ。
芝居の中でも、おもわずやさしく永瀬先生に手が伸びてしまった。
山田監督はカメラをまわしつづたそうだ。
しかし、この画面、じつに涙がとまらない。

配役は充実している。
西田や吉岡、永瀬に重度の障害児役を神戸浩。これはうまい。
ホテルの厨房でけなげに働く先輩を大沢一起。
吉岡、神戸の母役はそれぞれ泉ピン子に原日出子。
そして校長が中村富十郎、女先生にいしだあゆみ。
この歌舞伎界の重鎮の中村校長はいい。存在感がある。
そして、いしだあゆみ、じつに美しい。

山田作品には倍賞千恵子で、日本の母性を表現してきたようにおもうが
この作品のいしだあゆみは輝いている。

リュー先生の誘いに、
雪の残る夜の道を小走りに駆けていくシーンには
おもわず肩をだきしめたくなってしまったぞ(*^^*)


96/07/24 00:51:46 NGI00001 映画「学校U」<下>
まだまだつづく「学校U」の話。
この映画で山田監督は、相当、教師論や教育方法論に突っ込んでいる。
それが逆に「学校」のようなドラマ性を少しそいだ感はなきにしもあらずと感じるけど、
以下、気づいたところをメモしてみました。

<養護学校1年目の永瀬にベテランの西田がアドバスする場面>
西田「落ちつけ。子どもを叱るときは教師が興奮しちゃだめだ」
西田「なあ、コバちゃん(永瀬)、佑矢(神戸)は学校に行きたいんだぞ。
   それは彼の権利なんだ」
西田「子どもたちに迷惑かけられるのが教師の仕事だろ。
   それとも教師が楽できるような手のかからない人間を作るのが学校教育と
   思っているのか。」
西田「なんでもいい。まず、子どもとのとっかかりを見つける。そして共感しあう。
   そこからつぎの段階にすすめるんだ」

<永瀬といしだの会話>
いしだ「・・・あの子の気持ちに沿ったやり方なのね、あなた(永瀬)のは力尽くで
    押さえ込もうとするやり方。佑矢にはそれがちゃんとわかるのよ」

<西田と永瀬の車の中での>
西田「教わるんじゃなくて、自分で見つけろ」

<校長室で、吉岡と神戸を中村校長がしかりながら>
校長「いいか、君たちは一人で生きているわけじゃないんだよ。大勢の人たちとの
   つながりの中で生きているんだ。・・・どんなに心配したか、それを考えて
   みなさい」

<校長、西田、永瀬、いしだの話>
西田「与えるとか教えるとかいうことじゃないんだよ。子どもたちから学んでそれを
   返してやるーそれが僕たちの仕事なんだ」
校長「まあ、学校のできることなんてしれてるんだよ」
永瀬「それじゃ、学校って、何なんでしょうね」
校長「難しい質問ぶつけるね。今夜じっくり考えるから、君も考えろよ」

<西田、別れた妻へ娘の教育のことでの手紙>
西田 ぼくたちにできることは、あの娘に寄り添ってやること、そして、健康と、
 自分を愛する心を与えてやることだとおもう。どうか、あの娘に大きな期待を
 かけて苦しめないでほしい。
 あの娘にどんな花が咲き、どんな実がなるのかを知っているのは、親や教師ではなく
 本人なんだから。


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