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全国障害者問題研究会
第44回全国大会(愛知)基調報告
 

                                 
 常任全国委員会



T はじめに

 激動の一年です。障害者・家族・関係者が力を合わせ、たしかに歴史を前に動かしました。いま、わたしたちは障害者制度の大きな転換点にたっています。

 1月7日、障害者自立支援法訴訟団と国は、訴訟の終結に向かう基本合意書に調印しました。4月21日までに、全国14地方裁判所のすべてで勝利的和解を勝ち取り、当時の鳩山首相は、訴訟団124名に対し深く反省の意を表しました。障害者の生活と福祉を破壊してきた障害者自立支援法の廃止と新法制定を、私たちの力で約束させたのです。政府は、障がい者制度改革推進本部を置き、制度改革推進会議で政策提言に向けた話し合いを行い、6月、第一次意見がとりまとめられました。また、基本合意の内容の履行状況に ついて点検・監視を行うため、政府と訴訟団との定期協議が始まっています。

 昨年の総選挙では、長年国民を苦しめ、安心した暮らしや平和を脅かしてきた政治に対し、「こんな政治を変えたい」と、"NO"がつきつけられました。しかし、その後の鳩山−菅政権の政策には、後期高齢者医療や普天間基地移設の問題、消費税アップの思惑、地域主権一括法など、国民の利益に反するこれまでの政策を引き継ぐものが数多くあり、7月の参議院選挙では国民の厳しい審判を浴びることとなりました。

 障害者分野でも、本会議可決寸前で廃案とすることができたものの、昨年、一度廃案になった障害者自立支援法一部「改正」法案がほぼそのままの内容でだされ、与党(民主党)は、これに相乗りしました。この「改正」法案は、自立支援法の廃止を明記せず、自立支援医療には手をつけず、若干の手直しをしたと言われていますが、問題の根っこである「応益負担」のしくみを温存しているなど、その内容の点で多くの問題をもっています。また経過・手続きにおいても、基本合意文書の約束に背くものであり、訴訟団だけではなく、新法や新制度づくりを議論している制度改革推進会議にもまったく知らされず、他の法案の通すためのかけひき、つまり"政争の具"に使われたともいわれています。訴訟元原告の秋保喜美子さんは述べています。「納得できません。悲しいです。基本合意文書は、お互いに意見を交わしながら、つくったものです。裏切られた思いです」。こうした思いやねがいを裏切り、可決を強行することは、到底許すことができない暴挙です。

 全障研は、「障害者の権利を守り、発達を保障する」ことをめざして、相対的に遅れている分野や見過ごされている課題にも絶えず目を配り、その時々の障害者問題の論点や課題を整理し、明らかにしてきました。黙っていては何も変わりません。広範な運動によって、障害者・国民に冷たい政治を変え、国民の要求を実現する可能性があること、障害者分野におけるこれまでの取り組みはその典型です。6月に出された「子ども・子育て新システムの基本制度要綱案」に見られるように、1990年代後半からの高齢者、障害者分野における社会福祉基礎構造改革は保育分野に及ぼうとしていますが、今回の成果に確信をもって、憲法に基づく法制づくりに向けて、障害者運動の成果や教訓も集団的に学び合い、学習・研究運動を幅広く展開することが、今、求められています。 


U 障害児・者をめぐる情勢

1.障害者政策の動向

 この間政府は、はいくつかの調査を実施し、国民生活の深刻な実態を浮き彫りにしてきました。年間の可処分所得が114万円以下の人が15.7%にも達すること(07年相対的貧困率調査)、生活保護水準未満の世帯が14.7%を占め、そのうちの生活保護受給世帯は15.3%でしかない(07年生活保護捕捉率推計調査)こと、などです。一刻も早い抜本的対策が求められています。

 しかし、これまでに明らかにされてきている民主党政権の施策は、旧自公政権と同じ「経済成長のための福祉」であり「雇用対策重視」でしかありません。後期高齢者医療制度の廃止は4年後に、不十分さを残した労働者派遣法改定も実施は3年後にといったように、「経済が成長するまでは福祉抑制維持」です。そして「営利を生み出す医療と介護」(経済成長に貢献)のみが福祉で取り上げられています。
 障害者分野でも、深刻な実態が明らかにされてきました。自立支援法以前に比べて一人約7000円の負担増(食費等も含めて)が現在もあること、自立支援法施行当初に負担増を理由にサービス利用を辞退した人たちのうち、現在もサービスを利用していない人が37%にも及んでいること、等々です。すぐにでも解決すべきことです。

 しかし依然として、福祉サービス利用時の食費などの自己負担増はなにも改善されていません。低所得者の福祉サービス・補装具費の負担は無料になりましたが、自立支援医療負担は無料対象から除かれ、障害児の親等で一般所得階層の人たちの負担はこれまでどおりです。そして「これで応能負担になった」として、利用料や報酬単価のさらなる改定については「当分しない」とも言っています。

 子ども手当や高校授業料無償化など公約の部分的な実施を除くと、目新しい施策はほとんど打ち出されていません。10年度予算の社会保障関係費は、悪政と批判された麻生政権末期の09年度14.1%増を下回る9.8%増でしかないのです。これで一層広がり深刻化している「貧困と格差」に対応できるのでしょうか。不足が指摘される社会福祉施設の整備費も旧政権と同額の100億円でしかありません。

 障害者自立支援法が違憲であり、障害者の尊厳を傷つけたと反省したにもかかわらず、保育所制度において応益負担等を実施しようとしています。旧自公政権が構造改革の締めくくり施策と位置付けていた「規制緩和」を「地方主権改革」として一層すすめています。そのひとつ、社会福祉施設の最低基準緩和が狙われていますが、公費を投入しない福祉切り下げ、民間企業へ市場参加誘導でしかありません。

 たしかに障がい者制度改革推進会議では、これまでになく、障害者及び関係団体の対等な参加のもとに、国連・障害者権利条約の批准を重要な指標に抜本的な施策見直しの議論がされてきています。旧自公政権の「自立支援法3年見直し(部分修正)」を後押しした潮流も含めて、諸団体等が、これまでの「上からの抑制を前提にした利益誘導的な改革」ではなく障害者が主体となって要望を束ねる場となってきています。小さな願いも無視することなく、実態にもとづきじっくりと議論を重ね、どのような枠組みで、どこから、どのように、と予算確保も含めた具体化へと議論をすすめていくべきでしょう。全障研は、日本障害者協議会(JD)の一員として、この間、必要な意見を述べてきましたが、今後よりいっそう障害児者の願いと実態にもとづいた権利保障の制度構築にむけて意見を表明していくことが求められます。

 自立支援法訴訟では、「障害者の基本的人権の行使を支援する新法をつくる」と基本合意しましたが、民主党政権の社会保障・社会福祉施策のなかでは、こうした障害者分野の改善方向は全体の中の例外としか位置づけられていません。「新法が制定されるまで待てない」という切実な要望の実現も含めて引き続く運動が必要です。そして「応益から応能負担へ」という段階的要望だけではなく、障害を理由とした福祉制度の利用は原則無料で、といった要求も表明されています。さらに保育や高齢者分野でも、「低所得者原則無料に」という声が広がりはじめています。さらに要求を深め広めていく活動が求められています。


2.障害乳幼児の保育と療育

 高知県室戸市で障害のある子どもを育てるAさんは、療育や訓練を受けるために週1回隣の徳島県まで片道2時間をかけて通います。親子ともにたいへんなことですが、脳炎で重い障害をおった我が子にできることは何でもしてあげたいといいます。

 発達障害など、障害がわかりにくく、親の育て方が悪かったのではないかと一人悩んでしまうときにも早期の支援が必要です。保育園や幼稚園での集団生活上のトラブルに対しても、保育への適切なアドバイスが受けられ、保育者も親も悩まなくてもよい相談システムが必要です。障害のあるなしにかかわらず必要な施策と、障害があるから必要な支援は一体のもので、どちらが欠けても子どもたちの育ちを保障することはできません。そのためには、どこの地域に生まれても安心して育つことのできるシステムを、国や自治体の責任で作ることが求められています。

(1)障害の発見と療育の役割
 乳幼児期には母子保健法で実施される乳幼児健康診査があります。乳幼児健診は、障害の早期発見や対応に加えて、虐待の発見など支援が必要かどうかの見極めの場としての役割をもっています。健診はその当日で完結するのではなく、継続した支援を必要とする親子が通える「親子教室」等の設置が義務づけられることも必要です。子どもの虐待事件が多発している現状では、未受診の親子への働きかけも虐待防止につながります。子育ての不安を支え、療育の場へのつながりをつくる第一歩としての乳幼児健診の役割はますます重要です。こうした乳幼児健診を地方自治体が責任をもって実施するためには国の補助金による財源確保が必要です。

 療育では、子どもの興味や発達段階に合わせたたっぷりの遊びを、大人と一緒に子ども集団で体験します。療育に通うことは、若い保護者がこれからの子育てに向き合う上でも大きな影響を与えます。また、多くの情報も得ることができ、とりわけ、制度を利用するときに先輩の保護者などの経験談は大いに役に立ちます。療育には、「障害」と診断されている子どもや障害者手帳を保持している子どもだけはなく、発達に弱さがある、障害の疑いがあるなどの子どもも通います。いずれの年齢でも、必要な子どもに適切な支援が必要です。しかし、どこでも住んでいる地域で待たずに療育に通うことができるようにはなっていません。地域格差をなくす社会資源の整備は国と自治体の責任で実施することは急務です。

 障害のある子どもが利用する医療、福祉などのサービスは、契約制度によらず、教育と同じように基本的に無償であるべきだと考えます。

(2)障害児保育
 長引く不況の中で働く母親の数は増加を続け、保育所を利用する障害児も増えていると同時に、保育の中で障害や発達の弱さが発見される場合も増えています。保育の工夫はもちろんのこと保育所における障害児保育の専門性や人的配置の充実が求められています。しかし、6月末の少子化社会対策会議「子ども・子育て新システムの基本制度案要綱」は、待機児対策や幼保一元化などを表看板にして、保育と幼児教育を一挙に契約制度の個別給付制度にし、企業の参入を促進しようとするもので、子どもの発達保障の基盤を壊してしまいかねない、重大な問題をはらんでいます。もちろん、そこには障害児保育充実の視点はまったくありません。保育・幼児教育関係者と連携した学習・研究と運動をこれまで以上に強めていく必要があります。 

(3)安定した事業所運営のために
 障害児の通園施設や児童デイサービスでの安定した運営に欠かせないことのひとつは、人員配置や施設整備についての最低基準改善の課題です。乳幼児期の子どもが利用する通園施設のみならず、障害児の入所施設や学童保育などの放課後支援の場についても、最低基準の抜本的な改善が必要です。とりわけ障害児入所施設については利用児童の実態の変化に見合った改善が必要です。18歳以上の年齢超過児の在籍、発達障害などの子どもや虐待などの社会的養護を必要とするケースの増加に見合った見直しが求められます。

 また、事業所報酬の日額払いから月額制への転換も不可欠です。指導の専門性を確保することや実践の継続性は療育を行う上で欠かせませんが、日払いでの運営では困難です。新法の制定を待たずに改善されることを強く求めたいと思います。

 子どもの施策や支援の根幹には、子どもの権利条約第3条に規定されている「子どもの最善の利益」と第23条「障害児の権利」が位置づけられるべきです。新法制定に当たり、保護者や療育現場の生の声が十分反映されるよう、障害乳幼児の療育に応益負担を持ち込ませない会では250名以上の保護者の声を集め、推進会議室長に届ける活動をおこないました。

 保護者や関係者の声を聞き、子どもたちの発達が保障される障害児支援の仕組みづくりと、全国どこに生まれても、障害や発達の弱さをもっている場合も含め、すべての子どもが安心して育つ、子育てできる地域をつくることが緊急に求められています。


3.学齢期の教育

(1)特別支援教育の政策的推進とその現実
 この間、特別支援学校・学級、通級指導教室に通う子どもの数は激増の一途をたどっています。その背景には、一人ひとりに即した専門的な指導・支援に対する子ども・保護者の切実な現実があります。それは反面、通常学級において特別なニーズをもつ子どものための教育条件整備が十分になされず、競争・排除の教育が強まっていることの現われではないでしょうか。障害児学校では、大規模化・過密化による深刻な教室・教員不足が常態化し、授業はおろか、子どもの安全すら確保できない劣悪な環境が広がっています。また、貧困問題が深刻化するなか、生活や養育に困難を抱えやすい子ども・家族のセーフティーネットであるはずの寄宿舎が各地で統廃合の対象にされています。

 これらは、子どもの発達権と学習権の侵害にほかなりません。ところが、こうした権利侵害の実態を改めないまま、就労による「自立と社会参加」をめざす就労準備に偏重した教育が強化されています。これまで私たちは、教育の専門性を大切にしながら、教員だけではなく、看護師や介助員などの充実した配置を求め、他職種と連携した教育体制づくりをめざしてきました。しかし今、適正な教員配置と引きかえに、臨時採用講師や非常勤の看護師、介護士など、安定して教育活動に従事することが困難な雇用形態の導入と安易な分業体制のなかで、教育実践が細分化されようとしています。さらに職場では、トップダウンによる学校運営の効率化、成果主義を通じた教員の競争と管理の強化、ピラミッド型の職層化が進み、民主的な討議や合意形成を許さない状況が広がっています。

 こうしたなか、2010年2月、最高裁は七生養護学校性教育介入事件をめぐり、東京都教育委員会から不当な処分を受けた同校校長の金崎満さんが処分撤回を求めた「金崎裁判」について、都教委の上告を棄却、金崎さんの勝訴が確定したことは重要な意義があります。この判決は、行政・政治による不当な支配を許さず、教職員による民主的で協働的な学校づくりこそが、真に子どもの発達と学習の権利を保障するということに大きな勇気と確信を与えました。

(2)「インクルーシブ教育」の改革と改訂学習指導要領の動向
 障がい者制度改革推進会議では、「インクルーシブ教育」を障害児教育の改革理念として強く打ち出しています。しかし、通常学級への在籍を原則として、就学相談・指導そのものを否定的に捉えたり、特別支援学校・学級、寄宿舎を例外的・副次的に位置づける一面的な意見があることに注意が必要です。

 こうした推進会議の動向をにらみながら、文科省の中教審初等教育分科会は、「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」を設置し、インクルーシブ教育の「理念を踏まえた就学相談・就学先決定の在り方」や、「教員の確保及び専門性の向上」の検討が始まりました。しかし、安心・納得のいく就学先や就学形態の決定、特別支援学校・学級、通級指導教室の適正な設置など、特別支援教育そのものが抱える矛盾の解消、さらには多くの子どもが競争と排除の下で学習権を阻害されている通常の教育の深刻な実態の改革など、教育条件整備と結びついた多面的な改善課題を看過すべきではありません。本来、インクルーシブ教育は、その意味を就学の場の問題に狭く解釈せず、子どもの「最善の利益」と「権利としての教育」を保障する観点から、特別支援教育だけではなく、通常の学校において学習権を保障するための合理的配慮や差別と排除をなくす教育改革全体とのつながりにおいて構想される必要があります。

 学校現場では、改訂学習指導要領で「個別の指導計画」の作成が義務づけられたことにより、指導要領の考えが教育実践に直接浸透する仕組みがいっそう強化されました。数値化できる長期・短期の目標・評価基準の設定とその客観的根拠(エビデンス)が強調され、目の前の子どものねがいや課題から出発することなく、「できる」ことを要素的に取り出し、段階的に増やしていくマニュアル式の教育がPDCAサイクルという点検評価システムを通じて浸透しつつあります。また、就労100%を掲げる高等部単独特別支援学校設置の推進、「職業教育」・「キャリア教育」の一面的な導入により、労働のための知識・技能と切り離された「勤労観」・「職業観」の育成、現場実習の長期化や前倒しも目立ちます。

 その一方、ゆっくり・ていねいに学びながら社会に移行していくことへの要求はいっそう高まり、また、高等部訪問教育による就学猶予・免除者の教育権保障に寄せられる「権利としての教育」への信頼と希望には深いものがあります。不安定で競争が激しい現代だからこそ、社会への適応や就労だけをめざすのではなく、科学・文化・歴史の豊かさに触れ、一人ひとりが人間らしく輝き、信頼できる仲間と共に生き、働くことができるような土台を育む教育が求められているのではないでしょうか。そのためにも、指導の成果を数値化して競い合うのではなく、教育実践の手応えをもとに、子どもの内面を丁寧に見つめ、生活をまるごとつかみながら、教育課程編成を自由かつ創造的に行う教職員集団を育てていきましょう。とりわけ、養護学校義務制の実現を中心的に支えてきた世代の大量退職の時期だからこそ、職場における世代間の継承とつながりを大切にしたいと思います。

(3)歴史的なねがいを今につなぐために
 21世紀最初の10年の激動をくぐり抜けてきた日本の障害児教育ですが、めまぐるしい情勢を大局的に捉え、あるべき改革の方向性を示すべく、2010年3月、常任全国委員会は「障害のある子どもの教育改革提言―インクルーシブな学校づくり・地域づくり―」を発表しました。歴史的転換期を迎えようとしている私たちには、各地域や学校で起きている一つひとつの現実をリアルにみすえながら提言を丁寧に吟味し、インクルーシブ教育がめざすもの、そのために必要な教育条件整備や教育実践の課題を明らかにしていくような地に根を張った研究運動が不可欠です。

 それは、日本国憲法、子どもの権利条約、障害者権利条約の理念に立脚し、「権利としての障害児教育」が築いてきた歴史的到達点に学びながら、インクルーシブ教育の時代にふさわしい「権利としての教育」を創造していく共同の取り組みといえます。どんな障害や困難を抱えていても、常に社会や制度の「一歩前」をゆく子ども・青年たちの発達の事実に励まされながら、私たちは「学校」と呼ぶにふさわしい教育の内容と制度を生み出し、一人ひとりの存在がその人格の輝きと共にしっかりと根づくような「地域」づくりの輪を拡げてきました。今こそ、「学校づくりは箱づくりではない、民主的な地域づくりである」という思想に込められた歴史的なねがいを、全人格の「発達を最大限にする」「社会への完全かつ効果的な参加とインクルージョン」の実現へとつなげていくような研究運動を進めていきましょう。


V 研究運動の課題

 障害者権利条約の採択・発効という国際的動向や、障害者自立支援法訴訟の勝利的和解をうけながら、現在、新しい制度づくりの議論が進められています。障害児者や関係者の権利保障の立場から積極的な提案をしていくことが、研究運動の課題になっているといえます。現在の実態や課題、問題解決の方向性を明らかにし、それを広く共有するような取り組みを各分野で進めていきましょう。

 同時に、日々の生活や仕事に即した、一人ひとりの思いが大切にされる活動の魅力と重要性を改めて確認したいと思います。今日、障害児者や家族、教育・福祉等の仕事を担う人たちは、様々な悩み・困難を抱えるだけでなく、仲間とつながれないでいることも少なくありません。そのような一人ひとりの願いに応える地道な研究運動を、サークル活動等の形で進めていきましょう。一人ひとりの願いを出発点にすることは、全障研の活動の核心となるものです。

 また、障害児者をめぐる状況が様々に変化しつつあるなかで、権利保障をめぐる今日的な論点や到達点を積極的に学んでいくことも大切になります。『みんなのねがい』や『障害者問題研究』なども活用しながら、学習を進めていきましょう。

(1)権利保障のあり方の提案を
 新しい制度づくりが進みつつあるなかで、権利保障のあり方を提案していくことがひときわ重要になっています。障害児者・家族・関係者の権利侵害につながる動きを批判するとともに、未来に向けて夢を描いていくような研究運動を進めましょう。夢を共有し、願いを共有することが、権利保障に向けての大きな力になります。制度問題についても、制度のもとで展開される実践・生活の内実をふまえながら、前向きな発信をしていきましょう。

 「障害のある子どもの教育改革提言」の内容を集団的に討議し、さらに豊かな提言へと発展させていく取り組みも必要です。また、教育以外の問題や、教育のなかの各論的な問題についても、さらに研究を深めていくことが求められます。

(2)地域の実態をとらえる研究運動を
 国レベルでの改革に注目が集まる時期であるからこそ、地域の実態を丁寧にとらえることも大切になります。

 昨年の基調報告では「地域間格差の拡大」に目を向けるべきことが指摘されました。現在、政府が「地域主権」の名のもとに「構造改革路線」を進めようとしているなかで、この指摘は重要性を増しています。権利保障に関わる国の責任が後退させられ、地域間・自治体間の格差がさらに拡大する危険性があります。地域・自治体を越えた連帯の阻害も、「地域主権」の推進によって広がりかねません。

 それぞれの地域で起こっていることを具体的に把握していくことが求められます。同時に、要求の共通性、各地の実態の背景にあるものの共通性、実践において大切にされるべきことの共通性など、地域・自治体を越えた共通性に目を向けることも必要です。

 全障研の研究運動の持ち味を発揮し、地域の実態と要求をつかむとともに、地域を越えた課題を明らかにしていきましょう。数人で集まって日常の仕事や生活のことを交流することからでも、地域の実態や要求はみえてきます。講演会や学習会などの参加者に一言カードを書いてもらうのもいいかもしれません。私たち自身が自分や身のまわりの実態や要求をことあるごとに語っていくことも大切になります。

 地域の実態と要求に向き合うなかで、輪も広がっていきます。高知支部では、「学校をつくってほしい」というお母さんの声をきっかけに、特別支援学校の新設を求める署名活動が取り組まれ、サークルもつくられています。

(3)私たちのめざす実践像を
 権利保障のあり方を積極的に提案していくことは、制度の面で大切であるだけでなく、教育・福祉の実践の面でも重要になっています。

 今日、障害者自立支援法に象徴されるような社会福祉基礎構造改革の流れや、特別支援教育の政策的推進のもとで、障害児者に関わる教育・福祉の実践が歪められてきています。第一に、障害児者について、発達していく権利の主体としてではなく、預かりや見守りの対象として、あるいは就労・経済活動の準備をさせる対象としてとらえる傾向が実践にも影響を及ぼしてきています。第二に、目に見える部分的な「成果」を短期的に追求し、そのためにマニュアル的な手法を用いようとする傾向が目立ちます。

 人間発達の主体として障害児者をとらえ、一人ひとりの人間の「まるごと」に向き合う実践のあり方を、さらに深めていかなければなりません。実践の内実と、そこに求められる専門性を具体的に明らかにし、共有していくことが必要です。また、「マニュアル」ではなく、ゆるやかな「モデル」を提示するような、実践をめぐる研究運動が求められるのではないでしょうか。「何をすればいいのか」「どうすればいいのか」を考えるときに、具体的な状況に応じて実践者が主体的にアレンジできるような、実践の指針や参考となる「モデル」の存在が力になることもあります。

(4)サークル活動の推進を
 地域の実態をとらえ、目指す実践像を豊かにしていくためにも、身近な地域での支部活動やサークル活動が大切になります。

 近年、障害児者に関わる職場でも多忙化が進んでおり、実践経験や思いなどを交流する機会をもつことも困難になってきています。しかし、そういう状況だからこそ、学ぶ場や仲間で集まる場の必要性は高いともいえます。参加者自身の要求にそって、可能なところから、サークル活動を発展させていきましょう。少人数でも、継続的に取り組むことで力になることもあります。レポート報告を簡単なものにするなど、無理をしない工夫があってもいいかもしれません。

 2009年に全障研出版部から刊行された『学び合い・育ち合う子どもたち』は、埼玉支部障害児教育実践サークルの長年の活動の成果としてまとめられたものでした。サークル活動の発展は、全障研の研究運動に欠かすことのできないものです。

(5)研究運動の発展的継承を
 研究運動をこれからも発展的に継承していくためには、若手の参加を意識的に広げていくことが重要になります。

 これまで研究運動を中心的に担ってきた仲間が退職を迎える職場も少なくありません。研究運動のなかで大切にされてきたことや研究運動の成果を次世代に伝えていくことが必要です。その際、若手は、受け取る側、聞く側になるだけでなく、語る側にもなり、研究運動をつくっていく主体となることが求められます。

 近年、全障研では、若手の主体的な参加を進めるための新しい取り組みが進められてきています。東京では、35歳までの会員を参加者とする「発達保障ゼミナール」が4年目を迎えました。また、近畿ブロックでも2009年度に全10回の「発達保障ゼミナール」が試みられ、2010年度に継続されています。さらに、北海道支部や京都支部では継続的に「若手の会」が開かれており、学習と交流の場になっています。一方、来年には15回目の開催となる「学生発達保障セミナー」は、主に近畿圏の学生が発達保障について学び考える機会となってきました。

 学習への要求や仲間への要求など、若手の要求を基盤にした取り組みのなかで、研究運動の発展的継承を進めていきましょう。


 大会テーマには、「つくろう、平和と人権の社会」と掲げられています。平和と人権の社会をつくることは簡単な仕事ではありません。平和と人権をおびやかすものは常にありましたし、今もあります。戦争放棄を掲げた第9条、人間らしく文化的に生きる権利をうたった第25条、それらをもつ日本国憲法を壊してしまおうとする動きがあります。

 平和と人権の社会をつくることは、楽ではありませんが、楽しいことです。やりがい、喜び、共感があります。私たちは一人ではありません。横にも、前にも、後ろにも、仲間がいます。

 ともに学びあい、たくさん話をしましょう。ぜひ多くの方に全障研の会員になっていただきたいと思います。新しい時代をともにつくっていきましょう。