中教審特別支援教育特別委員会中間報告について
2004年11月26日 全日本教職員組合障害児教育部部長 杉浦洋一


 11月26日開催された中教審総会に、中教審初等中等分科会特別支援教育特別委員会の中間報告が提出され審議されました。意見を踏まえた修正の上、文科大臣に提出されます。中間報告は、日本の障害児教育の発展をねがう多くの国民に、失望と不安をもたらすものです。
 
 〔通常学級に在籍するLD児などの教育の、抜本的な発展方向は示されませんでした〕
 通常の学級に在籍する、LD、ADHD、高機能自閉症などの子どもたちの豊かな発達を保障するために国はどのような教育条件整備をすすめるのか、中教審特別支援教育特別委員会の審議に対して、強い期待と国民的関心が寄せられていました。中間報告は、この期待を裏切るものでした。
 いま、日本の子どもと教育は、多くの困難に直面しています。子どもたちがひとみ輝かせ新しい世界を学ぶこと、自ら考え判断する力・友だちと交わり自己を表現する力・たくましくしなやかな身体を育てることなど、子どもたちを育み、人格を完成させる、安心と共感に満ち溢れた学校と教育が、次々と壊されようとしています。その最大の原因は、過度に競争的な教育、先進諸国には例を見ない40人学級等の貧しい教育条件、教育の自主性を奪う管理統制の強まりなど、教育行政の貧困さ・硬直化です。教職員を増やし、学校に自由とゆとりを取り戻すことが求められています。
 LD、ADHD、高機能自閉症などの子どもたちも、この教育状況の中で、戸惑い、もっと自分のことを受けとめてほしい、しっかり向き合ってほしい、障害のことも含め自分のことをわかってほしいと願っています。全教は通常の学級で特別な支援をするための新たな教員を配置すること、「きこえ・ことば教室」等と別に、LD・ADHD等も学ぶ通級指導教室を設置できるよう教員の配置基準を定め計画的に配置することなどを要求しています。
 ところが中間報告は、これら教育条件整備につながる制度改正の方向を指し示すものではありませんでした。出されたのは、国として抜本的な予算・人員増を計画的にすすめるのではなく、障害児学校や障害児学級の教育削減、教職員の意識改革、地方自治体の負担増などの中だけで対応する方向でした。全国約3万5千校の小・中学校に、およそ67万人在籍していると想定されるLDなどの子どもたちの教育がこのような対応で前進するとは考えられません。
 
 〔障害児学校に在籍する子どもたちの教育の大きな後退が危惧されます〕
 一方中間報告は、障害児学校や障害児学級に在籍する子どもたちの教育の大きな後退が危惧される内容となりました。制度「改正」の方向が、最も具体的に示されたのは、障害種別を超えた特別支援学校制度への転換と、センター的機能を位置づける問題でした。
 現在の盲・聾・養護学校を、障害種別を超えた特別支援学校の制度にすること、基本的には盲・聾・知的障害・肢体不自由・病弱の5種類の障害種別(注:自閉症等は含んでいない)及びこれらの重複障害に対応した教育を行うことなどが示されました。障害種別に対応する「教育部門」設置については、設置や内容を「できるだけ設置者等に委ねる」としています。求められていたのは地方の裁量を尊重しながらも、国として財政的援助が可能となる制度的位置づけでした。中間報告で示されたのは特別支援学校制度への転換のみであり、特定の障害種の学校設置や教育部門設置は地方の課題として丸投げされました。障害種別を超えた特別支援学校への制度転換の最大の目的は、地方財政に応じて教職員の大幅削減をも可能にすることにあります。障害種別を超えた五つの学校を合わせることにより100名以上の教職員を減らすという秋田県の学校再編計画のような事例が、今後各地で急速にすすむことへの警戒が必要です。
 特別支援学校のセンター的機能の内容として、小・中学校在籍児などへの「巡回指導」や「通級指導」、個別の教育支援計画の策定支援などが例示されました。教員の配置等は、都道府県教育委員会等が配慮をするべきとここでも国の責任を放棄しています。センター的機能を制度的に位置づける一方、一律の機能としない方向も記述されました。これでは国としての定数改善計画の策定や標準法への位置づけなどの道が閉ざされます。すでに各地で、障害児学校に在籍する子どもたちの担任を大幅に減らし、「地域支援部」などの役割を担う教員を生みだす動きが急速に広がっています。
 
 〔障害児学級は、将来的になくしていくことを基本方向として示しました〕
 二つの背景の中で、当面は障害児学級を存続させる方向が出されました。一つはこの間大きく広がった父母や学校関係者の声であり、もう一つは義務教育費国庫負担制度の不鮮明な動向です。しかしこれをもって障害児学級が存続されたと評価するのは早計です。
 中間報告が示した内容は、障害児学級をなくし「特別支援教室」とする基本方向でした。その実現に向け、少し時間的保障が必要という判断がなされたと考えられます。一つは父母・教職員などの反発をかわすための制度改革を待たない実態的な「実質化」であり、もう一つは義務教育費国庫負担制度や標準法をめぐる「激動に耐えられる」制度設計のためのさらなる検討の必要性でした。
 「交流及び共同学習」の名で、障害児学級に在籍する子どもたちができるだけ通常の学級で学ぶ機会を増やすこと、障害児学級担任が通常学級に在籍するLD・ADHD・高機能自閉症等の子どもたちを指導・支援する役割を担うことなど、障害児学級の弾力的な運用をすすめる方向を鮮明にしました。障害児学級は実態として「特別支援教室」化がすすむことになります。
 固定式学級が持つ機能を維持できる制度の在り方を検討するという文言も見られますが、機能の内容は触れられていません。教員確保、長時間通級実現という意味であっても、他の特別支援教室担当教員を含む全国的な必要教職員数算出と計画的確保のための国としての制度的な位置づけが必要なことは言うまでもありません。同時に固定式学級が果たしてきた集団・生活・行事・保護者との関係など教育的側面からも、学籍や特別支援教室の運営問題を検討する必要があり、学級廃止・特別支援教室化を前提とする検討に狭めるべきではありません。
 中間報告資料では、障害児学級の平均在籍者数が都道府県別に示されました。現在地域事情の中で設けられている一人学級等に対する攻撃が、今後一層激しくかけられてくることが危惧されます。
 通級による指導についても、指導時間数の制限緩和、対象となる障害の種類にLD・ADHDを加えるなど、弾力的な運用の方向が示されましたが、そのための通級指導担当教員の増員についてはまったく言及されませんでした。
 
 〔中間報告を検討・討議し、パブリック・コメントを送りましょう〕
 障害児教育改革が、国の深刻な財政破綻にもとづく小泉「構造改革」の枠内で進もうとしています。しかし同時にこの間の推移は、父母・国民の声は確かな力を持つという事実もしめしています。
 中教審は、今後国民からの意見募集(パブリック・コメント)を経て答申を作成し、学校教育法など関連法・制度の改正がすすめられます。子どもたちの教育の前進を切望する障害児の父母・教職員・関係者の意見を集中することが決定的に重要です。全国の学校で、地域で中間報告の検討・討議をすすめ、数多くの意見を集中することを呼びかけます。すべての子どもたちの豊かな発達を保障する教育の前進を! 障害児教育の前進は、当事者・関係者のねがいにもとづく、共同と、大きな運動の中でこそ、推進していくことが可能です。


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