障害者の人権と発達          


 荒川智(茨城大学) 越野和之(奈良教育大学) 全障研研究推進委員会編                
 
定価 本体3000円+税   ISBN978-4-88134-524-5 C3036  2007.8.15   
表紙
「読みっぱなしではなく、みんなで読みあい、討論できるようなテキストをつくろう」。本書は全障研結成40周年を記念して、企画から執筆、編集まで集団的なとりくみで生まれました。障害のある人たちの権利を守り、その発達を保障するため、発達保障の歴史を学び、今日的な課題をつかみ、確信をもって情勢を変革していくための一冊。
目 次

 (PDFファイル)

第1部 障害者の人権と発達の保障のあゆみと到達点
 1 障害者の生活と教育・福祉の歩み/荒川 智(茨城大学) 
 2 乳幼児期の生活と発達の課題/中村尚子(立正大学) 
 3 学齢期の生活と発達の課題/越野和之(奈良教育大学) 
 4 青年・成人期の生活と発達の課題/木全和巳(日本福祉大学) 
 5 権利保障の運動の成果と課題/峰島 厚(立命館大学) 

第2部 障害者の人権と発達の保障をすすめるための課題と論点
<発達と教育の理論と実践>
 1 発達保障思想の水源  −糸賀一雄の思想と実践に学ぶ/河合隆平(金沢大学)
 2 「可逆操作の高次化における階層−段階理論」と障害児者の発達/白石恵理子(滋賀大学)
 3 「特別な教育的ニーズ」概念と教育実践をめぐる課題/越野和之(奈良教育大学)
 4 特別支援教育と教師の専門性/三木裕和(兵庫・出石特別支援学校)
 5 教育実践に基づく重症児発達研究の課題/北島善夫(千葉大学)
 6 自閉症研究の論点
     −発達研究、療育論の視点から/赤木和重(三重大学)
 7 LD等の発達障害と特別支援教育/奥住秀之(東京学芸大学) 
 8 社会教育・生涯学習をめぐる課題/丸山啓史(京都教育大学)
 9 日本におけるトランジション保障の課題と展望/山中冴子(埼玉大学)

<障害者の自立と生活・労働の保障>
 10 障害者の家族のいる家庭の支援/池添 素(らく相談室)
 11 障害者問題と所得保障制度の課題/鈴木 勉(佛教大学)
 12 就労・雇用問題の今日的課題/小賀 久(北九州市立大学)
 13 社会保障構造改革と障害者自立支援法/田中きよむ(高知女子大学)
 14 障害児の生活問題と福祉政策/佐々木将芳(立命館大学大学院)
 15 「障碍」概念の発展と「自立」概念の展開/木全和巳(日本福祉大学)

総括 障害者の人権と発達をめぐる理論的課題/荒川 智(茨城大学)

 おわりに

発達保障の歴史性と科学性が心に響く

         白石正久(全障研副委員長・大阪電気通信大学)

歴史性と科学性
 本書は、全障研の結成40周年を記念して企画、刊行されたものです。その編集と執筆は、荒川智、越野和之の両氏を中心とした全障研の研究推進委員会と、若手研究者によって進められました。
 第1部は人類史の流れにそった障害者の生活と福祉・教育の歴史を振り返り、さらに20世紀後半以降の発達保障の理論と実践を、ライフステージにそってまとめたものです。第2部は、「発達と教育の理論と実践」「障害者の自立と生活・労働の保障」のテーマのもとで、発達保障の思想の特徴、理論と実践の課題を執筆者の問題提起を交えて論じたものです。このように書くと、固い本のように感じるかもしれませんが、
難しさのなかにも、やさしく心に響くことのたくさんある本だと思います。
 何が心に響くのでしょう。それは、この本が大切にしている発達保障の歴史性と科学性です。歴史性とは、発達保障の思想の胚胎(みごもり、誕生すること)を、障害のある人々の基本的人権を確立しようとする歴史のなかに見出そうとしていることです。科学性とは、障害のある人に関わる教育学、心理学、医学、社会福祉学などの発展を踏まえ、その学問のなかで発達保障の理論がどのように位置づくのかを、既存の理論への批判も含めて検討していることです。
 発達保障の思想や理論は、全障研が独力で生み出したものではなく、基本的人権の確立や学問の発展をはじめとする社会進歩の歩みと不可分の関係にあることを、本書は実感を込めて教えてくれます。
この実感は、これからの歴史への希望をあたえてくれるでしょう。

通読、精読、輪読
 では、この本をどのように学んだらよいでしょう。私は、通読、精読、輪読という三つの読み方のステップを提案します。
 通読とは、
始めから終わりまで、一通り読み通すことです。時々出てくる難しいことばにひるまず、それは書き手の配慮の足らない部分だと達観して、最後まで読みましょう。途中でやめてしまうと、もうこの本の真髄に出会うことはできません。読み通すことができれば、歴史性と科学性と私が特徴づけた発達保障の懐の広さを感じることができるはずです。
 続いて精読であり、これは、細かい部分もよく注意して読むことです。すべての章を精読するのではなく、
章を選んで何度も読み、わからないことがあれば、参考書や辞書を引きましょう。このとき発達保障の立場で編集された『用語集』や『社会福祉辞典』は、役に立ちます。 私は、第2部1章の「発達保障思想の水源―糸賀一雄の思想と実践に学ぶ」(河合隆平)から精読することを勧めます。そこでは、糸賀一雄や彼とともにはたらいた人々が、愛情と謙虚さをもってともに生活するなかで見出した子どもの発達への願いが紹介されています。その願いこそ、みんなが幸福に生きる社会を建設するための「世の光」なのだとする糸賀たちの発達保障の思想に、若い読者も多くを感じてくれるでしょう。
 以上のような個人の学習努力の上に、輪読をしましょう。
職場や地域や学園で仲間が集まって読み合い、疑問を出し合って解釈を交わすなかで、大切なことがみえてくるのです。経験を重ねてきた人には、自らの実践と研究を振り返り、そのなかから後輩に伝えるべきことを創造的にまとめていくための手がかりとなるでしょう。これから経験を重ねることになる若い人には、自らの拠って立つ出発点を見定めるための手がかりとなることでしょう。
 
学習の目的の異なった世代がいっしょに学ぶことによって、本書に記されたキーワードには生命が吹き込まれます。たとえば、インクルーシブ教育、発達的共感、発達要求、自立などのことばには、異世代間でどのような理解が共有されていくのでしょう。そして、本書においても定説が述べられているわけではない発達保障の意味を、どのように定義することができるでしょうか。

権利保障の総合性
 さらに、
自分のしごとや興味のある領域に関連する章の学習で終わらないでほしいと、私は願います。日本において、療育、教育、労働、医療、福祉などの権利は、分立して(バラバラに)規定され制度化されてきました。その権利のいくつかが、障害者自立支援法によって制限されようとするなかで、一つの権利の侵害が他の権利の制限につながっていくという状況が生じています。たとえば、乳幼児期の療育の権利の保障はたしかな発達に結実し、学齢期の教育の可能性を広げてきましたが、その逆も成立するということです。教育の権利は、医療、福祉などの権利と不可分の関係にあります。自立支援法による負担増で入所施設を退所せざるを得なくなった子どもが、転校を余儀なくされる事態も発生しています。重症児には、十分な医療的ケアなくして教育権の保障は成り立ちません。
 つまり、権利は時間軸の縦にも横にもつながっているのであり、私たちはそのつながりをとらえた総合的保障という視点を学ぶことによって、視野の広い専門性を身につけることができるのです。
 権利を総合的に保障するためには、なんのための権利保障なのかという全体を貫く理念が共有されていかなければなりません。それは、
すべての人間の尊厳と幸福に生きる権利の承認を求めることです。その目的の実現のために、人間とその社会の潜在的可能性を解き放っていくことを願う発達保障の思想は、いよいよ真価を発揮することになるでしょう。
 そのとき本書は、発達保障を学ぼうとする人々の共同のテキストの役割を担うことになります。 (「みんなのねがい」2007年11月号)


書評 だれでも主体的に参画する自由提起  西村章次(白梅学園大学) しんぶん赤旗 2007.11.11新
■ご注文は、オンライン・カートオンライン・ショップ

もどる もどる