インクルーシブ教育の
 本質を探る
   荒川 智(茨城大学教育学部教授) 越野和之(奈良教育大学教授)
 
    定価 本体1500円+税  ISBN978-4-88134-185-8 C3037  2013.8.20 
  
  絶版 
表紙

 目 次

はじめに=荒川 智 


T部 インクルーシブ教育の潮流=荒川 智

第1章 インクルーシブ教育ってなに? 
 「共に学び共に育つ」でいいの?/ユネスコの定義/インテグレーションからインクルージョンへ
 /プロセスとしてのインクルーシブ教育/インクルーシブ教育と特別学校
 /「日本的なインクルーシブ教育」?/通底の原理としてのインクルーシブ教育

第2章 インクルーシブな学校における学習
 インクルーシブな学校のカリキュラムと学習・指導の方法/管理と競争の教育とは対極にある
 /授業のユニバーサルデザイン/「協同学習」と「共同学習」/個と集団と多様性

第3章 インクルーシブ教育が直面する課題
 一義的ではないインクルージョン/アカウンタビリティ(説明責任)/財政上の制約
 /先進的と言われている国でも

第4章 インクルーシブ教育のめざすもの −自立・社会参加と発達保障
 自立と社会参加/ヒューマン・ディベロプメント/潜在能力(ケイパビリティ)アプローチ
 /教育と潜在能力アプローチ/「新しい能力」論との関係で/インクルーシブ教育と発達保障


U部 わが国におけるインクルーシブ教育の論点=越野和之

第1章 特別支援教育はインクルーシブか
 特別支援教育構想とは何だったのか/構造改革に組み敷かれた特別支援教育構想

第2章 障害者制度改革と特別支援教育
 政権交代と障害者制度改革/推進会議第一次意見のインクルーシブ教育像
 /再び中央教育審議会へ/民主主義の徹底を基盤とした障害児教育改革を

第3章 教育における合理的配慮
 合理的配慮とは/合理的配慮と基礎的環境整備

第4章 就学システムの改革を考える
 特別支援教育制度下での就学システム/本人・保護者の参画の確保を
 /就学基準などの抜本的な見直しを

第5章 通常学校教育をめぐる課題
 通常教育全体の刷新を/特別支援学級の教育条件の改善を

第6章 障害児学校をめぐる課題
 地域の中に、開かれた障害児学校を/権利としての教育にふさわしい教育内容

《対談》インクルーシブ教育を私たちの旗に
 子どもの権利を保障する教育条件整備を/通常教育の改革が必要な状況
 /インクルーシブな授業づくり/一人ひとりを大切にする教育との共通項
 /インクルーシブな地域づくり

【資料】障害のある子どもの教育改革提言 ―インクルーシブな学校づくり・地域づくり―

おわりに=越野和之

本書に学ぶ  全教障教部 部長 土方 功   
ひじかた








 
 「すべての子どもを通常学級に在籍させるのがインクルージョン」「特別支援教育をすすめることがインクルーシブ教育の実現につながる」。障害児教育の現場でも、こんな考え方や感覚に取り巻かれてはいないでしょうか。一人ひとりの子どもに寄り添い、じっくり丁寧にかかわり、集団的に教育実践をすすめたいと考える教職員にとっては、インクルーシブ教育という言葉が、自分たちの願いや要求に結びついていない現実があるようにも思えます。

 本書では、インクルーシブ教育の本質、世界の潮流、日本における問題点・課題を整理し、私たちの実践や運動に大きなヒントを与えてくれています。真のインクルーシブ教育は「まさに管理と競争の教育とは対極」(25ページ)にあること、インクルーシブ教育の本来の理念は「権利としての障害児教育が求めてきたものと共通する」(103ページ)ことなどを、本書を通じて深く学ぶことができます。

 さらに、現実的に私たちが直面している問題、子どもたちを苦しめている教育政策の根本に新自由主義や市場原理主義があり、これらを克服するプロセスにインクルーシブ教育が位置付けられることも、私自身学ぶことができました。

 インクルーシブ教育という言葉を、思想的な分断攻撃の材料にも、教育条件整備を怠ける口実にもさせてはいけません。過大・過密状態が改善されずに、厳しい教育条件の中で学ぶ障害児学校・学級の子どもたちのためにも、競争主義、能力主義で追い込まれている通常学級の子どもたちのためにも、私たちが学びあい、共同を広げていくことが大事だと思います。
 

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