青年・成人期の発達保障
一人ひとりが人生の主人公  (絶版)

 白石恵理子(滋賀大学教育学部) 著

 
定価1500円+税  2002年8月10日 発行
 ISBN4-88134-081-6
■
 はじめに 3

 
1 生活をとおして発達を考える                  9
     ある生活施設での出会い  ハルオさんの絵から 
     発達、障害、生活をまるごととらえる 生活を照らし出しつつ発達を考える

 
2 思春期から青年・成人期へ                      17
     思春期から青年期へ
     思春期を越える命と輝き
     他者の意図を受け止める
     青年期には青年期の課題がある
 
 
3 依存し合いながら自立する       27
     依存できる他者が広がっていく
     親ばなれ・子ばなれ 
     親にとっても、子育てをつくり直す思春期   真に使いやすい制度を

 
4 労働と発達(1) 労働をとおして外界と自分をつくりかえる   39
     労働による手応えを発達から考える
     発達のエネルギーにかかわって
     何が「できる」かだけでなく

 
5 労働と発達(2) 労働と目的意識    47
     「一歳半のふし」と労働
     目的の主人公になる
     時間をかけて
     「意欲的」すぎて失敗してしまう
     「いっしょにやったなあ」

 
6 知的障害が重い仲間たちの日中活動          50
     自分の生活の主人公になりたい
     知的障害が重い仲間たちの日中活動をどうつくるか

 
7 あらためて「労働」について             67 
     企業就労をしていた仲間の姿から
     高等部教育にかかわって
     ライフサイクルを見通すとは

  8 日々の暮らしの生活のハリ        75
     「家庭内暴力」から一人暮らしへ
     自分の生活を意識する
     生活をふりかえる

 9 生活と「こだわり」                            83
     空き箱が宝物
     Hさんと職員のシーソーゲームから自分でつくる世界へ
     「弱さ」「しんどさ」ばかりに目を向けていないか

 
10 「加齢」について考える        93
     ふさゑさんの歴史
     知的障害をもつ仲間たちの「加齢」にともなう実践課題
     すぐに「老化」と結びつけない
     機能低下が起きても
     高齢期にふさわしい生活とは

 
11 実践をつくる                         101
     障害観、発達観、生活感を問う
     『夜明け前の子どもたち』から  
     ケース会議の意義
     「集団」という視点を忘れずに

 
12 長い成人期だからこそ                      111
     要求の掘り起こし
     実践記録を書く
     ライフイベントを大切にする
     職員の生活実感を大切に

   おわりに

 
   カバーの絵 表=大谷木靖子、裏=大岩妙子
            (嵐山四季の家=入所更生施設・埼玉)

■書評 老いていくことが前向きな人生へとつながる
      (「みんなのねがい」2002-10月号)

   石原繁野 滋賀・あざみ寮長

 私は知的障害をもつ人たちと暮らしを共にして45年になります。そんな歳月をふり返りながらこの本を読み、共感し、反省し、発見をし、感動し涙まで流してしまいました。それは共に暮らしたあざみ寮の人たち一人ひとりの発達、障害、生活のあゆみとこれからを、この本の中に読むことができたからだと思います。平均年齢が54歳になったあざみ寮の人たちが、加齢による体の弱さを少しずつ見せはじめた今、加齢を大切な力にして、これからの暮らしを築いてゆく希望をもつことができました。

 あざみ寮を代表する生き方を続けている57歳になる咲子さんの小学校の頃を思いました。こだわりの強い彼女は教室でひょっとこのように口をとがらせ授業を連日中断させ、そのために遠足に行けなくなり、教室でパンツを下げるので罰に廊下に立たされたら、男子生徒に投げキスをする始末。毎日遅刻するので母親に協力を求めるが、全く改善できません。担任と母親との関係まで悪くなり、担任の出した結論は、学校教育では指導できない、施設入所を望むということでした。

 この時代に、この本のようなたくさんの実践に出会い、話し合う指導集団があったら、咲子さんには別の生き方があったのではないだろうか。足の悪い老いて一人になった父を助け、家族の力としての暮らしを築いていただろうと思えるのです。

 あざみ寮の人たちは、両親の老い、友だちや自分の老いを考えるときにきています。いまみんなで「老いを生きる」をテーマに勉強しています。精力的に活動している老人の話を聞く会をもったり、老人のお世話をする人からの話を聞き、自分たちで老人体験をし、医師に変化してゆく体のことを学び、前向きに老いを考えることに取り組んでいます。この本を読み、自分の老いを生き方として考える一人ひとりのあゆみを、人生の主人公としてふり返り実践を記録することが、知的障害をもつたくさんの人たちの生きる力につながるのだと、強く確認することができました。やさしい文章の中に力強い勇気の湧いてくるのを感じました。


もどる