障害者問題研究  第30巻第3号(通巻111号)
2002年11月25日発行  ISBN4-88134-094-8 C3036  定価2000円+税



特集 障害の受容と理解

特集にあたって/津止正敏(立命館大学産業社会学部・本誌編集委員)

 障害と人間主体:ICFの障害概念との関連で考える
  /茂木俊彦(東京都立大学人文学部)

 ICF(国際生活機能分類)における障害の考え方の基本を整理し、そこで採用されている障害モデルが医学モデルと社会モデルを統合する相互作用モデル(医学=社会モデル)であるとの確認を行った。社会モデルは正しい部分を含むと同時に障害と障害者問題の固有性を解明する道を狭め、結果として障害者への対応の質と水準の低下を招くという趣旨の指摘を行った。さらに障害の受容に関連して上田敏の障害モデルにおける「体験としての障害」について批判的に検討し、障害とそれがある人の人格を相対的に分離して理論化を図る必要があると述べた。

 自分・この眼・世界を「好き」と言えるまでに
  /岸 博実(京都府立盲学校)

 1922年から今日までの全国盲学校弁論大会(戦前は盲学生雄弁大会)での生徒の弁論等を概観して視覚障害者の「障害認識」について考えた。1930年代には、15年戦争に向かう国策に塗りこめられ、尽忠愛国を訴え視覚障害を嘆くなの論調が続いた。戦後になって民主主義を基調として他者とのかかわりの中で自己認識を深めていく優れた主張が広がった。近年は、障害がある今の私が好き、この眼が好きという論旨の弁論が生まれてきている。障害受容をめぐる教育の課題として発達段階に配慮した障害認識教育が必要であり、視覚障害からくる教育的ニーズにこたえることが障害認識を深め、豊かに生きることにつながる。さらに中途失明者へのケアの必要や、保護者の意識の変化も指摘した。

 聴覚障害の自己認識の実践的検討:京都府立聾学校の試みから
  /藤井克美(京都府立向日が丘養護学校)

 聴覚障害児が、よき自己イメージの育ちの中で自分の障害を正しく認識し、人として誇りを持って生きる力の基盤を育てることをねらったカリキュラムづくりを検討した。
 京都府立聾学校小学部では、交流・共同教育の発展や、今日「自立活動」となった「養護・訓練」の内容の検討の中で、「障害の自己認識」カリキュラムを作成し実践してきた。カリキュラム内容の領域を「聴覚障害」「コミュニケーション」「社会生活」の3つとし、「(聾学校や障害者の)歴史」と「自分の生き方」をあわせて学習することとした。子どもたちが自分の障害について学ぶ中で変化していく姿に、アイデンティティ形成の基盤の育ちがみられた。この実践経験から、「障害の自己認識」のカリキュラムの改訂内容を検討した。さらに、聴覚障害児教育を発展させていく内容につながる視点ももてた。

 障害者の障害受容と自己認識:その発達論的考察
  /前川泰輝(大阪障害者支援センター"つるみ")

 近藤礼子の手記と前川自身の生育歴をもとに、脳性マヒの肢体障害者の障害認識、受容の問題を検討した。発達初期に障害を受けた場合、障害の認識、受容も発達的に変容すると考えた。第一の節目、3歳ごろの自我の形成期で、行動の制約への気づきがある。第二の節目、4〜5歳で自他分離ができるとともに自他比較での障害認識が芽生える。第三の節目、13〜14歳の思春期で、精神的、身体的危機に障害の再受容を迫られるとともに制度的な参加の問題へ認識が進む。第四の節目、青年後期から成人期は、社会的な視野が広がり、参加の問題を環境との関係でとらえる。さらに仮定的に、@新しい発達の力が誕生する時期に、障害認識も新しい内容をもつ、A障害の受容には、集団や人間関係の質がおおいに関与する、B集団や人間関係における肯定的評価は障害受容によい影響を与えるが、否定的処遇が「発達へのバネ」としてはたらくことがある、C障害の受容と認識には時代性があり、歴史の進歩が条件となる、と考察した。

手記
 一視覚障害者として生きる/高橋玲子
 聴覚障害に伴う諸問題の自覚と理解/渡邊健二
 脳性マヒの私の生きる道 障害の受容・自立のプロセス/松本誠司
 29年間の歩み/岡本真理
 人生中途の重度障害 絶望からの8年/山口 主
 手と光を失っても 生きるよろこび・働くよろこびを求めて/藤野高明

海外動向
 アメリカ合衆国におけるLDをめぐる最近の論議
   /清水貞夫(宮城教育大学)

 合衆国において、LDは、絶えず、その障害概念、診断手続きなどが論争の的であり続けてきたが、障害者教育法(IDEA)の見直しの時期を2002年に迎えて、LDをめぐって、あらたな論議が展開されている。たとえば、2001年8月、LDサミットが開催され、全米のLD研究者が多方面からの問題提起を行った。またIDEAの見直しの時期であることもあって、障害児教育団体や財団がLDにかかわる改革提言を行っている。さらにブッシュ政権は、「特殊教育に関する特別委員会」を指名して今後の障害児教育の在り方を報告させている。こうした一連のLD論議の中で、小学校段階でLDと認定するのでなく、遅れを示す子どもを早期に発見し、適切な教育的介入の経過の中で、漸進的に「読みの障害」「書きの障害」「算数の障害」などに分化し、それぞれに特化した教育指導を行う方向が多くの人により推奨されつつある。

連載/進路指導とトランジションB
 障害とニーズに応じた多様な進路指導―盲学校高等部(本科・専攻科)の実態から
  /東一郎(東京都立八王子盲学校)
 ゆっくり学びながら進路を考える―知的養護学校専攻科の意義/辻正(養護学校聖母の家学園)ほか

書評
 秋元波留夫『実践精神医学講義』 評者 中沢正夫(代々木病院精神科)

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