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全国障害者問題研究会
第47回全国大会(青森)基調報告

                                 
           常任全国委員会



はじめに

 成年後見制度を利用したために選挙権が剥奪されることは違憲とした東京地裁判決にもとづく公職選挙法改正、生活保護受給にあたって移動障害をもつ人の自動車保有を認めないのは違法とした大阪地裁判決など、障害者の視点で現行制度の矛盾を訴え、改善に向かう動きがつづいています。政治参加の権利や移動の権利は、障害者権利条約を構成する重要な権利でもあります。条約が示す権利に照らし、日本国憲法に依拠して、障害者・家族の実態を改善する取り組みがますます求められています。

 こうした人間としての当たり前の生活をおくる権利を認め、これを保障することを国として約束した法規が憲法です。これまで朝日訴訟をはじめ、司法に訴えた患者・障害者の声は、実際に制度の改正を勝ちとってきました。障害者自立支援訴訟とこれに連なる今日の制度改革のも同様です。裁判だけではありません。障害があるからと学校に行くことができなかった数万の子どもたちの実態を「ひとしく教育を受ける権利」が侵害されているととらえて、公的責任を果たさせることを求めた教育運動は、通常の教育より32年遅れながらも、養護学校教育の義務制を実現させました。

 しかし私たちの要求運動を真っ向から否定する「憲法改正」の動きが急です。2012年末の総選挙以降、改憲草案を示した自民党に同調する政党の動きが加わり、マスコミも改憲を煽るかのような報道をつづけています。

 自民党は憲法改正の手はじめに、改正発議の条件を衆参各院の2/3から1/2とする第96条改正を選挙の争点にしようとしています。もちろんその先には、戦争のできる国づくりがあることは、改憲草案に「国防軍」が明記されたことからも明瞭です。これと表裏関係で人権を「人類普遍の原理」とする規定や「平和のうちの生存する権利」は消え、社会保障の責任を放棄し、家族や地域での助け合いが第一とする考え方が強調されています。つまり、主権在民、基本的人権の尊重、平和主義という原則すべてを覆す内容です。

 憲法改正の動向を、障害者権利条約の批准とかかわって捉えることが重要です。権利条約は、世界中のすべての人の人権を確認したことの上に成り立つものです。批准後は、憲法の下で生きる条約となるのですから、憲法が人権を蔑ろにしたものに変質してしまうことがあるなら、権利条約の内容は絵空事と化してしまうでしょう。改憲の動向を正確につかみ、憲法を一人ひとりのものとするための学ぶ活動をひろげ、多くの人びとと手をつないで、改憲の動きを根源から絶つとりくみを強めていくことが重要だといえます。


1、制度改革の動向

 2010年年明けから本格化した障害者制度改革が当初目標として掲げた3課題は、つぎのような段階にあります。すなわち、障害者基本法改正(2011年7月)、障害者自立支援法に代わる障害者総合支援法制定(2012年6月)、そして障害者差別解消法の成立(2013年6月)です。障害者基本法改正では、基本的人権を享有する個人としての尊重という理念が確認され、社会的障壁を踏まえた障害者の定義がなされたものの、総合支援法は障害者自立支援法のしくみをまったくそのまま継承、介護保険との統合の意図を色濃く残しています。差別解消法は、その名称にも表れているように、差別の定義さえしない実効性のない内容にとどまっています。また、改正障害者基本法に規定された政策委員会が、2013年度からの障害者基本計画にかんする意見(2012年12月)をまとめたにもかかわらず、現在のところ国は計画の策定に着手していません。障害者自立支援法制定を推進した勢力への再度の政権交代は、さまざまな関係者の意見をまとめ上げながらすすめてきた制度改革の質を低く抑えようとしているのです。

 しかし、この間の障害者運動はたくさんの財産を蓄積してきました。さまざまな障害者団体が話し合いを通じて一致点を確かめ合い、障害者権利条約を日本社会に生かすために、政府に障害者政策の転換を迫ってきたという運動の過程と、障害者と家族がまとめ上げた意見を国と確認した運動の実績という二つの面での財産です。自立支援法訴訟団と国が交わした基本合意文書と権利条約を指針として、障害のない市民との平等、谷間や空白の解消、格差の是正などを自立支援法に代わる法律の基本にすえるとした障がい者制度改革推進会議総合福祉部会「骨格提言」は、政府が公式に認めた文書です。したがって、「障害に伴う費用は原則無償」「事業運営の報酬は原則月払い」「本人意向の尊重、協議・調整による必要十分な支給量確保」などの具体的提言内容は、総合支援法の3年後の見直しに生かされなければなりません。さらに、推進会議で積み上げられ合意された内容は、差別解消法の施行(2016年)や権利条約批准を迎える段階において、おおいに生かされるべきものだといえます。障害者と家族の権利を保障する運動において、これらを学び、広め、活用していきましょう。


2.乳幼児期をめぐる情勢

(1)一元化しても問題点はそのまま
 障害乳幼児分野は、2012年4月から改正児童福祉法が施行され1年が経過しました。自立支援法の児童デイサービスから児童福祉法の児童発達支援事業と放課後等デイサービスへの移行、児童発達支援センターの機能と児童発達支援事業の関係、重症児の通園事業のあり方などをめぐって、厚労省と自治体の言うことが異なるなど、混乱した1年でした。利用契約、応益負担、日額報酬などの自立支援法の枠組みにはいっさい手をつけず、問題点の解決は置き去りにされています。児童福祉法であっても、成人期にある障害者の利用を念頭においたしくみを乳幼児期の子どもを当てはめているので、混乱がつづいているのです。

 乳幼児が利用する障害種別の通園施設と児童デイサービスは「児童発達支援」に一元化されました。「身近なところで支援が受けられるように」というねらいなのですが、以前から通園施設が少ない県や肢体不自由児通園施設未設置の県が多く、施設や事業の再編だけでは身近な地域で、必要な時期に、適切な療育や訓練が受けられることにはなっていません。1時間以上かけて療育に通っている親子がたくさんいることや、利用料や療育回数や療育形態などの地域格差が大きい実態は解決されていません。さまざまな困難を抱えている親子に大きな負担がかかっている現状を改善することが求められています。

 また、病気やきょうだいの都合などで欠席の多いのが乳幼児施設の特徴なので、日額報酬制では運営が不安定になり、療育の質の低下を招くことが指摘されてきました。この点での困難も続いています。激変緩和のための障害児通園施設への特別予算措置も2013年3月で終了したために、存続の危機に立たされている施設もあります。

(2)療育とは何かが問われている
 改正児童福祉法に位置づけられた児童発達支援事業は、「身近な地域での療育」の実現にとって期待されている事業です。基準を満たせば簡易な手続きで開設できるため、各地で急増傾向にあります。障害者手帳がなくても通所支援の決定がなされ通所できるので、その役割は大きいのですが、子どもの発達を保障する療育内容であるかどうか、不安の声も聞かれます。就学を前にして「いすに座っていられる」、「トイレのサインができる」などを宣伝文句にして個別指導やトレーニングする事業所もあるのです。

 「登園曜日も決まっておらず、通園しても毎回お友だちがちがう園もあります。これでは先生やお友だちと関係を築くこともできません」と知り合いの子どもが通う事業所を心配するお母さん。親は子どもの送迎をするだけで、親の会もなく、子どもの発達に共感しあう機会もありません。「これを療育と呼んでいいのだろうか」と疑問の声も上がっています。障害があっても乳幼児期に必要なあそびや友だち関係を十分に保障し、子どもらしい一日を送ることの大切さを、親子、保育・療育関係者の間でもっともっと深めていきましょう。

(3)どの地域でも適切な支援を
 通園開始の手続きも大きく変わりました。窓口が市町村に一元化され、役所に行く前に利用計画案を相談支援事業所で作成することになりましたが、子どもの特性や保護者の状況を理解した支援計画という点での専門性が不十分です。改正法にもとづくシステムを地域に整備する今の時期に、初期の相談支援から公的支援が手を引くことのないようなしくみ、身近なところに相談できるところがない場合、療育の機会を奪われることにならないしくみを市町村に確立していくことが課題となります。保健センターでの乳幼児健診の充実と気になる子どもや保護者に対しての幅広い支援、早期療育につながる連携など、公的機関と児童発達支援との連携がますます求められているといえましょう。

 保育所や幼稚園では、「気になる子ども」や集団活動への特別な支援が必要な子どもが増えていますが、障害児支援の新制度と「子ども・子育て新制度」の両面からの課題に直面しています。改正児童福祉法の新事業である保育所等訪問支援事業は、個別給付であり「支給決定」からはじまる、保育所内での個別指導などが想定されているなど、現状にそぐわないために、実施箇所数や利用も伸びていません。これまで自治体で工夫してきた巡回指導などのしくみを廃止することにならないよう、自治体に働きかけることが大切です。

 保育所や幼稚園はまた、2015年からの新制度実施にむけ準備がすすめられています。子ども・子育て支援法をはじめとする「子ども・子育て新制度」は、保護者の就労や待機児対策を中心にして組み立てられているため、障害児の発達を保障する集団保育の場としての保育所・幼稚園という視点が完全に抜け落ちています。子どもに障害があるために就労が困難な場合やパートタイムの就労でもこれまでどおりの保育時間で保育所に通えるのか、3歳未満児はどうなるのかなど、障害や発達に弱さがある子どもたちが置き去りにされるのではないかとの不安の声が強まっています。新制度具体化を審議している「子ども・子育て会議」(内閣府)の内容を把握し、障害児保育が地域格差なく充実するよう、声をあげていくことが大切でしょう。

 虐待が疑われる子ども、生活困難をかかえた家庭の子どもなど子育て支援の強化がますます求められています。その中で、「育ちや発達の弱さが気になる子どもたち」への早期からの気づき支援が子育て支援や早期療育の視点からも重要となっています。「療育に通うことで子どもが変わり、不安は希望へ変わっていきました」。こんなお母さんの声が、全国どこでも聞かれるよう、すべての子どもたちが安心して育ち、命が守られ、発達が保障され、適切な子育て支援がどの地域でも保障されるために力を合わせましょう。


3、学齢期をめぐる情勢

(1)障害児教育機関で学ぶ子どもの「激増」
 特別支援教育がスタートして7年目に入りました。特別支援学校、特別支援学級、通級指導教室のいずれにおいても、そこで学ぶ子どもの人数の増加傾向がつづいています。2012年度統計を見ると、特別支援学校(幼稚部〜高等部)で学ぶ子どもは129,994人で、10年前の2002年度の138%。同様に、小・中学校の特別支援学級は164,428人で201%となり、「10年間で2倍」の人数です。通級による指導を受けている児童生徒の人数は小・中計で71,519人、225%です。

 「特別な場で学ぶ子どもの全般的激増」状況は、90年代中頃から一貫し、特別支援教育への移行期においてさらに加速したものと見られます。ここから、いくつかのことが指摘できます。第一に、「特別支援教育の推進」路線の下でいくつかの策が講じられてもなお、通常の学校の教育環境は障害や困難をもつ子どもたちにとって、学習し生活しやすいものになっていないということです。第二に、より適切な教育をもとめて特別支援学校、特別支援学級、通級教室を選択した子どもたちの増加に対応した条件整備を行政が怠ってきたために、これらの教育環境が著しく悪化していることも重大です。

 こうした状況をあらため、必要な教育条件を整えるために、わが国の学校制度で唯一「設置基準」が整備されていない特別支援学校の設置基準制定を求める運動や、地域の実態にそくした学習も始まっています。教育条件悪化のもたらす権利侵害の事実と「設置基準」未整備の不当性を明らかにするとともに、求められる「設置基準」の内実などを究明する研究運動が必要です。 

(2)この間の教育政策の特徴とインクルーシブ教育構築の課題
 中央教育審議会は、昨年7月に「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進」という報告を公表しました。この間の制度改革の動向や障害者権利条約批准の課題などに促されての政策策定の動きですが、この報告のいう「インクルーシブ教育システム」が、通常学級の学習環境を改善し、特別支援教育の直面する諸問題を有効に打開するものとなるかといえば、残念ながらそうは思えません。

 たとえば、報告では障害者権利条約のキーワードの一つである「合理的配慮」について検討しています。そこでは「合理的配慮を提供しないことは障害者に対する差別」という権利条約の根本的な思想は無視され、その実施責任は個々の学校や地方自治体に押しつけられることになっています。保護者と学校・教育行政の間の矛盾を生み出してきた就学指導システムについても、保護者の「意向尊重」は掲げたものの、「総合的判断」の名による行政裁量の余地を残しました。障害者の人間的な諸権利を公的な責任において保障するという姿勢にとぼしく、障害者権利条約・インクルーシブ教育の革新性を最大限に薄めた上で「特別支援教育の推進」路線の継承・強化を正当化するものと言わざるを得ないのです。

 中教審報告のこのような特徴は、単にインクルーシブ教育の理解不足などではなく、この間の教育政策全体の動向と分かちがたく結びついたものです。2013年度の政府予算では、「インクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の充実」などが謳われ、「通級指導など特別支援教育の充実」として600人の教員増なども組み込まれています。しかしそれは、全国学力テストの悉皆化、いじめ問題への対応、道徳教育の充実等と並んで、「世界トップレベルの学力・規範意識による日本の成長を牽引する人材の育成」という文脈に位置づけられたものです。障害のある子どもの教育権保障は、依然として「対応すべき個別課題」に過ぎず、教育政策の基調は「世界トップレベルの学力・規範意識」「日本の成長を牽引する人材の育成」におかれています。こうした政策こそが、障害やその他の困難を抱える子どもたちに対して、排除圧力を高めてきた最大の要因であることは否定すべくもありません。

 2013年6月14日に閣議決定された第2期教育振興基本計画では、その「共通理念」の一つとして「教育における多様性の尊重」が謳われています。一見、インクルーシブ教育の理念とも共鳴する文言のように見られますが、そこでいう「多様性の尊重」とは、「受ける教育や条件整備の手段等に選択の自由があるなど教育の在り方自体が画一でなく多様であること」というかたちで、教育に市場化と規制緩和を呼び込むものであり、「権利としての教育」という思想はまったく欠落しています。

 障害者権利条約第24条は、障害のある人の教育への権利の承認から書き始められています。「教育は欠くことのできない権利」という理念によってたつこと、このことなしには「インクルーシブ教育システムの構築」はありえないことを確認しておきたいと思います。

 高校(高等部)卒業後の学習の場への要求が各地で高まっており、そうした要求にこたえて、社会教育や福祉制度を活用した活動の場なども多様に試みられています。今大会では、従来の「後期中等教育・卒後の課題」分科会での討議を基盤として「18歳以降の教育」分科会を新設しました。各地での多様な実践を青年期の発達保障の課題として検討していくために、討議を深めていきましょう。

(3)障害のある子どもの生活をめぐって
 この間の障害者福祉制度の変遷の中で、学齢障害児の生活のありようも大きく変化してきました。特別支援学校などでは、下校時、各種事業所のデイサービス等の車に乗り込む子どもたちが多くなっている地域もあります。ゆたかな放課後保障をめざす運動は放課後等デイサービス事業を創設させるところまで歩みを進めてきました。「放課後は母親を中心とした家族と、家の中で過ごす」といわれてきた障害児の生活も、地域によっては「大きく様変わりした」状況が生み出されつつあります。

 では、子どもたちの生活はほんとうの意味でゆたかになったのか。毎日ちがう事業所のデイサービスを利用し、日替わりの場と集団で過ごしている子どもたちもいます。私たちは目の前の現実を子どもの側から見直す必要があるのではないでしょうか。

 特別支援教育構想においては、学校外の医療や福祉とも連携して、生活全体を見渡す個別の教育支援計画を作成する建前になっています。しかし、支援計画はあるものの、多忙化の中で子どもたちの生活を十分つかめていないということはないでしょうか。一方で、子どもたちの放課後の生活をまるごと受けとめてきた特別支援学校の寄宿舎は、少なくない地域で統廃合の攻撃にさらされ、そうでない場合も、「通学困難の場合に限り利用可能」などといった制約をかけられて、本来の教育機能を発揮しづらくさせられています。

 障害のある子どもたちの生活を、「家の中」「家族の責任」に閉じ込めておくことの不当性は明らかです。しかし、家族・家庭に代わる受け皿を「商品」とみなし、日割り、時間単位で切り売りさせようとする政策の下で放置するならば、生活そのものが部分化され、そうした生活の状況がトータルに把握されにくい構造が生み出されてくるのではないでしょうか。障害のある子どもたちのゆたかな発達の保障をめざす私たちの研究運動は、こうした事態に目をつぶるわけにはいきません。真の意味でのゆたかな学校外生活をつくりだす運動、その基盤としての、子どもたちの生活実態を明らかにする研究活動が求められています。


4、成人期をめぐる情勢

(1)社会保障制度改悪と障害者の生活
 障害者の生活と切り離せない社会福祉、社会保障の改悪の流れがあります。「社会保障・税の一体改革」のもとで、2012年8月に突如、民主、自民、公明の三党で強行採決された社会保障制度改革推進法です。その特徴は、「自助・共助・公助」の理念にもとづく自己責任と相互扶助、消費税引き上げ、社会保障の保険化です。増税分は社会保障に充てるという消費税引き上げの当初の根拠も曖昧にされ、大型公共事業が復活しています。

 「社会保障制度改革」の第一歩が生活保護制度の大改悪です。生活保護の申請時に書類の提出を求め扶養義務者の状況を調べるなど、いわゆる“水際作戦”を制度化する改正法は先の国会では廃案になりましたが、次期、再上程が目論まれています。

 現在、地域で暮らす障害者にとっては、障害基礎年金、障害者手当とともに、生活保護が重要な収入です。「障害の重い人の生活保護受給率は9.95%で平均の6倍」。きょうされんが行った調査ではこうした実態が浮かび上がっています。受給抑制を図る制度改悪が実施されれば、障害者の生活を直撃することはまちがいありません。また生活保護の基準は、福祉サービスの利用料の基準や最低賃金、諸手当などとも連動しており、生活保護制度の改悪は生存権そのものを否定するものです。

(2)「他の者との平等」を実現する課題
 障害者権利条約の批准が現実的な課題となる情勢の下にあって、障害があっても自分らしい人生を送る条件が生涯にわたって整っているのかが問われています。まだまだ不十分とはいえ、生活の支援が整備され、医療が進歩するなかで、障害者の「成人期」は確実に延びており、働くことや学習すること、健康に暮らすことなど、「成人」というひと言では括れない多様な課題が実践や運動に中から提起されています。『障害者問題研究』が特集した、知的障害が重い人たちの高齢期における発達保障に注目があつまっているのもその例です。

 障害者自立支援法廃止の運動の中では、福祉サービスの利用料が配偶者の収入認定によって決まるしくみの背景にある民法の扶養義務規定や65歳での介護保険優先の問題性を指摘してきました。実際、岡山に住む浅田達夫さんは、「65歳になると介護保険に移行し介護が有料になる」ことを、重度障害者の生存権の侵害として訴えています。

 こうした運動は、国家責任を免罪して、自己責任化と相互扶助化、福祉の商品化を推進している現在の国の社会保障政策の根本を問い直すことになります。日本の福祉制度に「低所得者は利用料無料」という画期的な低所得者対策を引き出してきた障害者運動の成果を幅広い人たちと共有し、社会保障全体の底上げをしていくような運動へとつなげていく必要あります。


5、研究運動の課題

 どこに生まれ、住もうとも、自分らしく育ち、学び、はたらき、安心した暮らしを実現することが、みんなのねがいの基盤です。そのなかで、障害者の権利保障をめぐって起きている問題をつぶさにとらえながら、発達保障の研究運動を大きな時代の流れに位置づけることで、目の前にある問題の解決はもちろん、めまぐるしく変化する今ここに立って、未来をまっすぐ、そして力強く見通すような理念を打ち出していくことが求められています。そのために、研究運動がこれまでに獲得し、到達してきたものを確かめ合い、私たちが共有すべき方向性と課題を明らかにしていきましょう。

(1)私たちの眼で人間の尊厳を確かめ、民主主義の思想に息吹を
 さまざまな意見や立場のちがいをこえて「基本合意」と「骨格提言」を生み出した共同の努力を通して、私たちは人間の尊厳や権利保障を深くとらえる眼をより確かなものとしてきました。そうした眼を通して地域の実態と向き合い、障害者をとりまく困難や問題を明らかにしながら、そのままでは見えにくい悩みや要求をていねいに掘り起こしていくことが求められます。一人ひとりの実態やねがい、地域の現状を語り合うことから出発し、さらに地域をこえた取り組みを進めていくことで、個別の要求や問題のもつ共通性が明らかになり、その実現を阻む要因や矛盾も権利侵害の事実としてとらえなおすことができるのではないでしょうか。

 また今年3月、震災と原発事故のもとでの障害のある人たちとその家族の被災・避難状況、関係者による支援活動をまとめた『ともに、つなげ、ひろげる―東日本大震災と私たち』を出版しました。被災地の記憶や経験に学び、そこに生きる人たちのねがいを共有し続けるためにも「ともに、つなげ、ひろげる」ということを大切にしていきましょう。

 ねがいを確かめ合うことでつながりを広げ、ともに生活し、学び、はたらく仲間とともに実態や認識を共有していくことが研究運動の基盤となりますが、どんなにささやかであっても、実態や意見を交流しあう支部や職場、サークルでの学習や研究の活動が大きな原動力になります。そこでは『みんなのねがい』や『障害者問題研究』も積極的に活用しながら、みんなで学びの幅を広げ、課題や本質を奥深くとらえる眼を地道に育んでいきましょう。

 こうして、ひとりのねがいを「みんなのねがい」としてまとめ上げ、より大きな権利保障の要求へと束ねていく協同の取り組みを通じて、身近なところから「私たちぬきに、私たちのことを決めないで」という人間の尊厳と民主主義に貫かれた思想に息吹をふきこみましょう。

(2)「発達保障」を深く学び合おう
 私たちは、常に目の前の事実から出発することでそこにつながるいくつものねがいや問題を掘り起こすとともに、個人の発達を保障するために、個人だけではなく、集団の発達、社会の発展という、三つの系のなかで発達保障の実践と研究の課題を明らかにすることを大切にしてきました。そして発達の三つの系という理解を通して、障害のある人たちがもつ発達へのねがいと人間的な値うちをまるごと受けとめ、それを実現する豊かな実践を生み出すとともに、障害のある人とかかわる人たち自身の人間的な発達や実践のよろこびを共に創造してきました。

 しかし今、権利として保障されるべき教育が「義務」として押しつけられ、福祉は「商品」として障害者・家族が買うものへと変質させられるなか、子どもやなかまの人間的な発達やねがいの実現ではなく、短期間での変化や目標達成、かかわりの効率化が実践の価値の左右し、そのための実践のマニュアル化や専門性のパッケージ化が進んでいます。現場はますます多忙になり、実践者の創意工夫を削ぎ、自由な実践を縛るような管理や統制が強まっています。福祉分野では多様な事業所の参入が進み、さまざまな働き方で現場を担う人たちも新たに増えています。

 こうした時代だからこそ、子どもやなかまのねがいに寄り添いながら、豊かな発達と生活を共に築いていくという発達保障の考え方と実践が、人間を大切にする仕事に価値を見出そうとする人たちに広く開かれ、その人たちを励ます指針となることが求められています。発達の事実を具体的に確かめ合い、実践のどんな小さな悩みでもていねいに受けとめ語り合うことで、現場の諸課題と結びつけながら、発達保障の実践を豊かにするものと阻むものを明らかにし、共有していくことを大切にしていきましょう。

 今、私たちのなかに根づいている発達保障の考え方をじっくり学びたいという要求が高まっています。ブックレット『発達保障ってなに?』は昨年8月の刊行以来、多くの地域や職場、サークルでの学習の素材として広く活用され、あらためて発達保障の思想や歴史に触れるとともに、自分たちの実践や経験を通して「発達保障」を学び合うきっかけを提供しています。読み合わせる、ディスカッションする、レポートにまとめるなど、さまざまに活用することで、学ぶ要求をしっかりと受けとめながら学び合いを深め、これから実践を担おうとする人たちとの新たな出会いや対話を積極的に広げていきましょう。そのなかで、一人ひとりが考える発達保障を語り合い、社会へと発信していきましょう。

(3)世代をつなぎ、研究運動の裾野を広げよう
 発達保障を学び合う活動を通じて、研究運動を支える人たちの世代継承も進みつつあります。とりわけこの間、支部やサークルによる組織的な支援、研究運動の主力を担ってきたベテラン世代からの力強い励ましを受けて、若手の主体性や積極的な参加がめだっています。若手には歴史をしっかり学びながら、ベテランからバトンを確かに受け取り、次の研究運動を主体的に担っていくことが期待されています。

 2011年度からスタートした「全障研5カ年行動計画」も後半期に入ります。前半期には、フリーペーパー「ねがじん」と「ステップアップセミナー」の取り組みを通じて、新たな人たちに全障研を知ってもらうとともに、一人ひとりが自らの言葉でねがいや悩みを語り合うなど、支部やサークルの活動の拡大や活性化につながりました。後半期には、学びへの要求や若手のエネルギーを位置づけながら、研究運動の裾野をさらに広げていきましょう。

(4)平和と人権が輝く時代を歩もう
 発達保障をめざす私たちの研究運動、障害者の発達と権利を保障していく取り組みの拠りどころとなったのが、日本国憲法です。しかし今、憲法改正に向けた動きがかつてないほど緊迫した状態にあります。戦後社会に生まれた「この子らを世の光に」という発達保障の思想には、障害者も例外なく権利の主体であり、平和のうちに基本的人権が保障される民主主義の担い手なのだというメッセージが込められていました。私たちの研究運動も、発達保障を掲げることで、平和と民主主義への歴史的なねがいを受け継ぎ、人間らしい生活が保障される権利、社会の主人公となるための教育や労働の権利が、すべての人にひとしく保障されることを追求してきたのです。

 世界中のすべての人の権利が平等に保障されるインクルーシブな社会の実現を人類共通の課題として確認した障害者権利条約は、この間、国内の障害者の権利保障と発達保障への取り組みを励ますとともに、権利条約の批准に向けた制度改革への当事者参加を前進させてきました。権利条約の理念と水準にふさわしい国内法制度をつくりあげていくことと、改憲の動きに対抗して憲法をしっかりと守り、すべての人のいのちと人権が大切にされる平和でインクルーシブな社会を創造していくことは、切り離すことのできない課題です。

 それぞれの地域や職場に根ざしつつ、より広範な人びとと手をつないでいくことで、障害者とその家族の生活と権利を保障し、人間的な発達を豊かに実現していく、そのはじめの一歩を踏み出し、つながりを深め、学び合う場として全障研の研究運動はあります。

 みなさん、大会を通じて共に語り合い、大いに学び合いましょう。そして、平和と人権が輝く時代に向けて、発達保障への道をいっしょに力強く歩いていきましょう。

 最後になりましたが、震災と原発事故は、いまなおたくさんの人を苦しめています。放射能漏れ事故も起き、今後も大規模な地震の発生が予測されているにもかかわらず、各地の原発の本格的再稼働や原発の海外輸出まで進められようとしています。

 東日本大震災では、今大会開催地である青森県も大きな被害にあいました。それを乗り越え大会を成功させた底力を全国に広げ、障害のある人もない人も、すべての人が安全で安心して暮らせる社会を築いていきたいと思います。                             (2013年8月10日)