障害者問題研究  第41巻3号(通巻155号)
2013年11月25日発行 ISBN978-4-88134-225-1 C3037  絶版
特集 発達診断を実践にどういかすか (絶版)

特集にあたって
  障害のある人々の発達を「よく理解する」ために/白石正久 

教育実践における心理学的な診断と治療法の位置づけ/茂木俊彦(桜美林大学)
要旨:本稿で筆者は,まず知能検査や発達検査,さらにいくつかの治療・訓練法について,それが個別化と数値化を特徴としていること,それは教育実践との関連で見ると限界と見なすことができることを指摘した.ついで障害児の教育(特別支援教育)に見られる最近の動向を批判的に検討し,その上で教育実践は,教師が日々の取り組みの中で子どもと実際に関係を取り結びつつ,そこから立ち上げられ展開されていくものだという視点から,ふたたび知能検査や発達検査,各種の治療・訓練法に立ち返り,その位置づけや活用の仕方についての考えを述べた.筆者は,心理学的知見や技術,療法は,それをもって教育に取って替えることはできないこと,またそれらを実施してその効果を実践にどう般化するかという枠組みをとることは不適切だと述べた.言い換えれば,実践の展開を基盤としつつ,実践を発展させるためにそれらを活かすという枠組みを重視するべきであることを強調した.

発達保障における発達診断の方法の検討/木下孝司(神戸大学人間発達環境学研究科)
要旨:本稿では,発達年齢や発達指数などの数値を出すことに留まる発達診断のあり方を批判的に検討した.その上で,発達保障のために発達診断を活用するには,発達の普遍性と個別性を把握する発達理論が必要であることを指摘した.さらに,発達検査の利用において次の3つの点に留意すべきであることを述べた.1)検査結果を「できる−できない」という基準でとらえず,課題達成に必要な能力の分析を行う.2)課題実施において,子どもの反応に応じて条件変化を導入する.3)検査場面をある種のコミュニケーション状況としてとらえ直して,検査者と子どもの関係を分析する.最後に,発達診断と教育実践はともに,子ども理解の仮説を検討するという点で共通性があることを述べて,両者の関連について議論した.

「可逆操作の高次化における階層−段階理論」とそれに基づく発達診断の試み
 /河原紀子(共立女子大学家政学部)
要旨:本稿では,田中昌人らの「可逆操作の高次化における階層−段階理論」における重要な概念を概説し,この理論に基づく発達診断の実践的意義について検討した.まず,以下の4つの概念を概説した.第一に,人間の発達の内的法則性を明らかにするための基本カテゴリーである「可逆操作」,第二に,発達における4つの連関の静的な把握である「機能連関」およびその動的な把握である「発達連関」,第三に,発達の質的変化を捉える「階層」と「段階」,第四に,発達の質的な変化をもたらす「新しい発達の原動力」である.その上で,「階層−段階理論」に基づく発達診断の意義として,検査基準では捉えられない内面性の把握が可能であること,障害事例の療育場面で見られた「気になる姿」と発達診断の結果を,発達連関の視点で捉えることの重要性を示した.

自閉症スペクトラムをもつ子どもの発達診断の方法論的検討/別府 哲(岐阜大学教育学部)
要旨:本研究の目的は,第一に自閉症スペクトラムに関する診断の現状をレビューし,第二に発達診断を行う際に重要となる視点について検討することにある.第一の点については,@診断技法の多くが,障害の有無やその強弱の診断を目的としていること,A近年この中心的障害を社会性障害とする流れの中で,自閉症スペクトラムにおける社会性の発達を評価し支援につなげる技法(例えば,SCERTSモデル)が生み出されていることを指摘した.第二の点について,機能連関,発達連関という視角が重要であることを社会性についての実証的研究を挙げ論じた,具体的には心の理論と共同注意を取り上げた.その結果,心の理論は,直観的心理化の弱さを持ちながら命題的心理化によって補償的に形成され,共同注意は,心的主体としての他者理解を伴わないまま汎用学習ツールによって獲得するという,自閉症スペクトラム特有の機能連関の存在が指摘された.この視角の発達診断における優位性を論じた.

重症児の発達診断についての実践的研究/白石正久(龍谷大学社会学部)
要旨:ここでは,感覚や運動機能などの障害が重く,その表出される活動からは発達診断のための情報を得ることが困難な重症児を対象として,発達検査と診断のための基本的な方法について,二つの点から論じようとする.第一に,乳児期前半の発達段階である回転可逆操作の階層にあり,視聴覚や目と手の協応に障害が現れやすい重症児の発達診断において,それらの目に見える未成熟さではなく,活動が途切れても対象を補足しようとする能動性のありようを診ることの大切さを論じる.第二に,感覚や運動機能の障害が重くとも,言語を受けとめ対比的認識や系列的認識などを獲得しつつある子どもがいることを踏まえて,発達検査と診断の方法の創意ある開発の必要を論じた.

成人期知的障害者への実践における発達診断の意義/白石恵理子(滋賀大学教育学部)
要旨:成人期の実践の場でも,知的障害のある利用者に対して発達診断を行うことが少しずつ増えている.本論文では,筆者が約20年前から発達診断でかかわってきた作業所における,2事例の発達診断結果と職員集団での事例検討の経過を通して,成人期知的障害者への発達診断の実践的意義と留意点を考察した.発達診断は,発達年齢や発達指数を算出するためではなく,一人ひとりがどのような意図や創造性をもって外界に働きかけ,また外界や自分自身をどのように認識しているのかの理解につながることで,実践的意義をもつ.そのためには,職員集団での議論と結びつく必要がある.


実践報告

重症児の発達診断と保育実践/篠原純代(堺市社会福祉事業団堺市立えのきはいむ)

重度障害児の授業づくりのための発達診断/櫻井宏明(埼玉県立日高特別支援学校)

成人期施設で発達診断を実践に生かす/篠崎秀一(埼玉・みぬま福祉会)

動  向
「病気療養児に対する教育の充実について(通知)」から考えた大切なこと
 /副島賢和(品川区立清水台小学校・昭和大学病院内さいかち学級担任)

医療的ケアの現状と課題/出島 直(NPO法人医療的ケアネット,京都民医連中央病院小児科)


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