障害のある子どもの教育改革提言
 
インクルーシブな学校づくり・地域づくり 増補版 絶版

  荒川 智 (全国障害者問題研究会委員長・茨城大学教育学部教授) 編著

 
  定価 本体1700円+税  ISBN978-4-88134-874-1 C3037  2010.12.20
  
<目 次>

 はじめに(PDF)  3

 障害のある子どもの教育改革提言 ─インクルーシブな学校づくり・地域づくり─
 全国障害者問題研究会常任全国委員会 11

第1章 障害のある子どもたちをとりまく情勢 15

1)せめぎ合う権利保障と権利侵害 16
  権利としての障害児教育の展開
  新自由主義的構造改革の波紋
  インクルーシブな学校づくりと地域づくりを

2)特別支援教育の新たな問題と矛盾 20
  4年目を迎える特別支援教育
  新たにどのような問題や矛盾をもたらしたか
  障害児教育運動の前進、成果と現状を変える条件
  障害種を超えた特別支援学校で本当によかったか

3)学習指導要領改訂と指導のマニュアル化 26

4)現行就学制度の問題点 28
  現在の就学手続きとその問題点
  調査協力者会議における就学支援の議論
  子どもの最善の利益のために安心・納得して選べる制度なのか

第2章 インクルーシブ教育とはなにか  ─障害者権利条約が提起するもの─

1)憲法、子どもの権利条約の再確認を 34
  日本国憲法が保障する権利としての教育と福祉
  国際的人権条約・宣言とインクルージョン
  発達・発展への権利
  文化の多様性

2)障害者権利条約とインクルージョン 41
  障害者権利条約の基本的理念
  「第24条 教育」をどう読むか
  完全なインクルージョンの目標とは

3)インクルーシブな教育システムの原則 48
  各国の特別ニーズ教育・インクルーシブ教育の状況
  インテグレーションとインクルージョン
  多文化教育との接点
  トランスバーサル(通底)の価値と「和して同ぜず」
  日本らしいインクルーシブ教育の創造へ
  意見の違い、多様性の尊重を

第3章 インクルーシブな地域の学校をつくる 59

1)就学制度の改革 60
  改革の前提と原則
  市場競争でも自己責任でもない納得の得られる就学先の決定を
  複数の在籍の保障を
  地域学校籍の意義と限界
  「学籍一元化」の問題

2)学校教育全体の改革を展望する 65
  学級定数の改善
  全校的な支援体制を
  通常学級の支援スタッフと合理的配慮
  イギリスでの合理的調整

3)教育課程と教育実践 70
  競争的学力向上から共同・協同の学習へ
  通常学級の生活指導と学習指導
  通常学級の授業づくり・学級づくりの原則

4)特別支援学級・学校の役割 73
  特別支援学級・通級指導の役割
  特別支援学校の地域支援の原則

5)特別支援教室構想の問題 75
  特別支援教室構想とその問題点
  本当にインクルーシブ教育に向かうのか

6)義務標準法の行方 78

第4章 特別支援教育制度を改革する 79

1)特別支援教育改革の基本的制度設計 80
  特別ニーズ教育と特別支援教育
  特別支援教育の位置づけ

2)特別支援学校のあり方 83
  特別支援学校の目的
  無償化と年限延長
  小規模で地域に密着した学校へ
  センター的機能か特別支援センターか
  寄宿舎教育の役割

3)特別支援学級・通級指導のあり方 88
  特別支援学級の制度
  通級指導の制度

4)教育実践のあり方 90
  学習指導要領の大綱化と教育の自由
  めざすべき自立と社会参加
  生きる力を育むということ
  同僚性と共同性を

第5章 インクルーシブな地域づくり 95

1)乳幼児期の生活・発達と地域療育システム 96
  毎日通園したいけれど
  乳幼児期の特徴
  すべての子どもの健康と発達の保障の土台を
  子どもの権利と公的責任
  基幹的施設整備の必要性
  身近な地域に必要な社会資源とその連携
  自立支援法の根っこをなくす

2)学齢期・卒業後の地域の生活と学習 108
  3つの生活の場
  放課後・休日活動と地域づくり
  放課後活動の制度化に向けて
  卒業後の地域生活

3)社会への多様な参加を 114
  自立支援政策と社会参加
  ヨーロッパの若者政策論争
  インクルージョンと新自由主義

補章 北欧・フィンランドの小学校でインクルーシブ教育実践を考えた 117

結びにかえて ─平和・人権・発達保障の展望─ 126
  教育政策の基本的ありかた
  障害者基本政策のありかた
  潜在能力アプローチの可能性


補論 インクルーシブ教育の議論に求められるもの 131

 「教育改革提言」の議論を広げて各地の学校づくり・地域づくりにつなげよう
  ―新刊を発行した荒川委員長に聞く(全障研しんぶん6月号)

 3月に常任全国委員会が発表した「障害のある子どもの教育改革提言」(以下、提言)に続いて、荒川智委員長(茨城大学)が同タイトルの本を発行しました。丸山啓史さん(京都教育大学・常任全国委員)が聞きます。

●幅広い人たちと議論しよう
丸山 最初に、提言と今回の本の関係を教えてください。
荒川 いま進められている改革推進会議の議論に意見を出す必要性、広く伝えていく課題もあり、ポイントを提言として発表しました。
 ただし提言はわかりやすくするために箇条書きにまとめていますので、伝えきれていないところも多い。本では提言の内容についてていねいに解説しています。
 また、提言では触れていない重要な点についても論を展開しています。たとえばイギリスの学校における合理的調整の例なども加えて、制度論だけはなく、教育現場に即してイメージをもてるような注意もしたつもりです。
丸山 これまでも全障研は障害児教育改革の焦点や展望に関わる本を出版してきましたが、それらの本と比べて今回の本の特徴はどのあたりになるのでしょうか。
荒川 ひとつは障害者権利条約や制度改革推進会議など新しい動向を踏まえていることです。また、インクルーシブな教育の視点で言うと、特別支援教育だけではなく教育全体の改革に位置づけていること、学校教育だけの問題ではなく地域づくりの中に位置づけていることです。
丸山 読み手のイメージは、障害児教育関係者になるのでしょうか。
荒川 まずは全障研の中で提言や本を使って議論したい。支部やサークルで議論する素材にしてほしいです。
 主だった読み手は障害児教育関係者になるのかなと思いますけれど、通常の教育に携わっている人にも広く読んでもらいたいですね。
丸山 私も、特別支援教育が進められている中で、提言や本を障害児教育関係者にとどめずに広げていくことは必要ではないかなと思います。
荒川 インクルーシブな教育は、障害のある子どもだけの問題ではありません。外国人の多文化教育や貧困・格差の問題とも関連しています。実際にそうした問題に直面している先生たちは多いと思いますので、そういう人たちとのつながりも大事になってきます。むずかしいけれど努力の必要な課題ですね。
丸山 私も関わっている放課後関係など、さまざまな分野での議論を広げながら、今後の教育のイメージを深めていく取り組みが必要ですね。
荒川 私は教育学が専門ですが、今回の本では放課後や卒業後の問題にもふれました。就学前については中村尚子副委員長が執筆しています。
 私自身、この本を書くことで視野が広がったと思いますし、学校教育の中だけで教育改革を完結させようとしても無理なんだとあらためて感じています。
丸山 提言では、制度改革推進会議の議論を前にした短期的な課題とともに「全障研としてこれからこういうことを考えていくんだ」という長期的な方向性も打ち出しています。そういった広い構えで提言していることも意味があると思います。

●「入り口論」と私たちが大事にするべきこと
丸山 もうひとつ質問です。推進会議での議論などでは「特別支援学校や特別支援学級での教育は分離で差別なんだ」というような意見がまだまだ強い。そういう点との関わりはどうでしょうか。
荒川 確かに推進会議での議論も、分離か統合かの枠組みが前面にでてきて、インクルーシブな教育についても就学の入り口の問題にばかり焦点がいってしまう傾向があります。もちろんそれは避けて通れない問題なんですけれど「就学の時点でどうするのか」ではなく、それ以前の生まれたときからの乳幼児に対する相談や療育のシステムがいかにつくられていくかによって就学の問題も変わってくるんですね。さらに就学後の教育をどうしていくのかも、きちっと考えていかないといけません。そういう意味では「入り口論」だけではおさまらない、長期的な展望をもった議論をしなければいけないし、学校の中だけではおさまらない、地域を視野に入れた議論が必要だと思います。
 提言では「基本的に、すべての子どもに地域の小・中学校への在籍を保障し、同時に、本人もしくは保護者の要求に基づき、特別支援学校および特別支援学級への在籍を保障する。希望するすべての子どもに通級による指導を保障する」と書きました。この部分については「全障研がここまで言うのか」とドキッとする方がいるかもしれません。
 ここでは、子どもの学習権や発達権を保障し、子どもを教育から排除しないという権利条約の理念に即して、当事者の要請を満たすひとつの方向として提起しています。
 たとえば、これまでは、条件が貧弱なためにやむなく特別支援学校を選ばざるを得なかった保護者や子どもも少なくないと思いますが、提言では特別支援学校や特別支援学級に行かせたい(行きたい)という思いや要求にこたえる方向をうちだしていると理解してください。さらに言うとこの部分がとりわけ重要なのではなくて、むしろその後にふれている、学習権・発達権を保障するためのさまざまな教育内容や方法の確立や、条件整備の方が重要なんだと伝えてほしいのです。

●それぞれの地域での具体的な取り組みにつなげていこう
丸山 全障研としては、提言や本で書かれていることを、それぞれの地域でどのようにイメージしていくのかも大事な課題になると思います。
 たとえば、私は大阪のある自治体で、放課後の過ごし方や支援のあり方の実態をつかんで政策提言をまとめていく取り組みに関わっていますが、そのなかで「あの体育館でトランポリン教室をやってほしい」「統廃合のためにあいているこの小学校の教室を児童館的なものにしてほしい」など、必要なものが具体的な声として出されています。
 提言や本を踏まえながら、自分たちの地域ではどういうものが必要なのかを考えていくことが大事なのではないでしょうか。
荒川 そうですね。地域によって条件などもまったくちがってきますので、全障研の支部やサークルが提言や本を学習して、それぞれの地域での学校づくり・地域づくりの検討につなげていってもらえるとうれしいです。

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