障害者問題研究  第33巻第3号(通巻123号)
2005年11月25日発行  ISBN4-88134-304-1 C3036  定価 本体2000円+税

特集 福祉のまちづくりの新展開

特集にあたって 日比野正己(長崎純心大学・本誌編集委員)

21世紀の都市・国土政策と福祉のまちづくり
 本多昭一(新建築家技術者集団、福井大学シニアフェロー)

要旨:
戦後日本の政府の国土・都市・住宅政策は、5次にわたる「全国総合開発計画」(全総)や8次の「住宅建設五箇年計画」に象徴されるように、福祉とはおよそ無縁の代物であった。しかし、それら政府の政策に抗してたたかわれた住民主体のまちづくり運動の中に、21世紀の都市・国土政策と福祉のまちづくりの萌芽が出てきている。その要点は以下の4つである。(1)トップダウンでなく住民主体の民主的なまちづくりへ、(2)細分化された計画でなく総合的まちづくりへ、(3)現状を前提とした対症療法まちづくりでなく、憲法の理念を踏まえた根本的まちづくりへ、(4)地域コミュニティ再生・活性化
キーワード:住民全体のまちづくり、全国総合開発計画(全総)、公営住宅法、「まちづくり憲章」、地域コミュニティ、憲法22条


宮崎市における福祉のまちづくりの推進について
 岩浦厚信(宮崎市役所建築指導課、日本福祉のまちづくり学会九州支部事務局長)

要旨
:本稿では、福祉のまちづくり条例にもとづいて推進される宮崎市の福祉のまちづくりの状況について述べる。第1は条例の特徴であるすべての対象施設を事前協議の対象とした行政指導により多くの施設がバリアフリー化されていること、とくにバリアフリー化された施設のうち、ほかのほとんどの県や市の福祉のまちづくり条例で事前協議の対象としていない延べ面積300平方メートル未満の小規模施設が、バリアフリー化した建築物の過半数を占めていること。第2は、小規模施設をバリアフリー化することの意義。第3は、条例や交通バリアフリー法に基づいて、既存の道路や公園、公共の建築物、交通施設について、計画的に改修がすすめられていること。第4は、条例に基づき総合的、計画的に福祉のまちづくりを推進するために、2004年度から2008年度までの5年間の計画として、2004年3月に「福祉のまちづくり総合計画」が策定されたこと。これにより市民協働による25の検討委員会が設置される予定である。本稿では市民協働により福祉のまちづくりの政策立案を行う「バリアフリー検討委員会」の状況を述べる。
キーワード:福祉のまちづくり条例、小規模施設、市民協働、政策立案、情報公開

斜面地特性に応じた安心安全のまちづくり−高密度斜面居住問題の総合的解決
 平野啓子(有限会社長崎建築社、NPO長崎斜面研究会)
 辻村友子(訪問看護ステーションひまわり、NPO長崎斜面研究会)

要旨
:2004年度の合併前の長崎市は市街地の7割が斜面地であり、その大半は、車が入らない細街路と階段で構成された高密度居住地である。たとえば、十善寺地区においては、車が進入できる道路の割合は総延長(水平距離)の約12%であり、市内(合併前)の他地域に比べて、高齢者のみの世帯や高齢者の一人暮らし世帯が多い。また、人口の減少が進行し、空き家・空き地が増加し、コミュニティの弱体化が進み、近隣で生活障害を支えあう地域の力が期待できない。斜面居住地は、自力での階段の上り下りが難しい高齢者や障害者にとっては、@社会との関わりである外出に関しての障害、A日常の生活と暮らしの場との不適合、B災害や救急などの緊急時の不安、という3つの生活障害を抱えている。地域ケアの考え方に基づく、長崎斜面研究会の活動実践は、高密度斜面居住地の生活障害の解決策の一指標といえる。
キーワード:高密度斜面居住地、高齢者、生活障害、外出支援、地域ケア

認知症になっても住めるまちづくりをめざして
 佐々木由恵(国際医療福祉大学)

要旨
:現在、認知症に関しては医学的な研究と同時に、対人援助を重視した研究や実践が活発に行われている。特に認知症の人の尊厳、障害の緩和、自立をめざし、認知症ケアの専門性をもった職員に24時間見守られ、支えられながら、なじみの人と共に暮らしていくグループホームの実践は、認知症の根本的な治療方法が見出せないでいる今日において、認知症の人の能力を最大限引き出す有効な生活の場となってきている。
 筆者は2005年2月に東京の郊外にグループホーム(認知症対応型共同生活介護)を開所した。地域密着型の特徴をもつグループホームのケアの実践を、地域の環境がもたらす認知症への成果を踏まえ、認知症になっても安心して暮らせるまちづくりについて検証する。
キーワード:認知症、グループホーム、地域、まちづくり

福祉のまちづくりと公共交通改善運動
 森すぐる(フリーライター、交通権学会会員)

要旨
:近年、公共交通機関の「バリアフリー化」が休息に進展している。これらの変化は、「福祉のまちづくり」運動などが始められた1970年代からの積み重ねによって実現したものである。本稿では、1970年代より近年までの動向を、「対立の70年代」「公的整備が進んだ80年代」「法整備と当事者参加が拡大した90年代以降」と、概ね10年刻みでの変化で捉え全体動向を概観する。この三十数年にわたる当事者運動は、日本国憲法大97条の「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であって、これらの権利は、過去幾多の試練に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである」を具現化するものといえる。
キーワード:交通バリアフリー法、福祉のまちづくり、当事者運動、住民参加、交通権

<各地の運動と福祉のまちづくりの課題>
積雪寒冷地における福祉のまちづくり運動のあゆみと課題

 −交通権110番と市営地下鉄に安全柵を設置させる取り組み
 黒沢彬(障害者の生活と権利を守る北海道連絡協議会)
 後藤昌男(交通権を考える連絡協議会)

 高森衛(全国障害者問題研究会北海道支部)
 宮下高(交通権を考える連絡協議会)

キーワード:
交通、障害者、高齢者、移動制約者、公共交通機関、地下鉄、交通権110番、積雪寒冷地、福祉のまちづくり

自然公園のバリアフリー改善
 三橋恒夫(千葉県肢体障害者協議会)

キーワード
:自然公園、バリアフリー化、泉自然公園計画検討委員会、電動車イスハイキング、当事者参加・市民参加

<海外動向>
北欧・デンマークにおけるバリアフリー

 小賀久(北九州市立大学)
要旨:
北欧では包括的な法制度の下で、障害者の地域生活全体を支える取り組みが展開されており、多種多様な生活困難を一般法の中で一体的に解決していこうとしている。障害者や高齢者のための特別な取り組みをするのではなく、誰もが暮らしやすい地域社会を創り出しているのが北欧である。北欧でのバリアフリーを筆者なりに翻訳すると、「障害者を含めた国民全体の、生活の自由度を拡大する取り組み」として解される。本稿では特にデンマークのバリアフリー事情について紹介する。
キーワード:生活の自由度、自己決定、ノーマライゼーション、パーソナルヘルパー、ピクトグラム

<研究ノート>
知的障害養護学校における性教育実践の教育課程への位置づけと課題 
 児嶋芳郎(全国障害者問題研究会)

要旨:
人間の性は、人格を形成する要素の一つであり、だれもが持つ人権であるとの考え方が、現在世界的な認識となってきている。それは当然、障害児者にとっても同じであり、その権利が保障されなければならない。主体者として性の権利を行使する能力の発達を中心的に担うのが性教育である。障害児教育における、特に知的障害児に対する性教育は、多くの人々に必要性が認識されているにも関わらず、その実践に取り組むことに躊躇を覚える実践現場も少なくなかった。その理由として、性教育の指導項目を明確に認識することが困難であったことと、教育課程編成上、曖昧な位置づけがなされてきたことがある。本稿では、まず性教育の指導項目とはどのようなものであるかを明らかにした。そして、それを教育課程に位置づけるにあたって、各教科、各領域とどのような関連をもっているのかを見た。その上で、教育課程編成上どのような課題があるのか考察を加えた。
キーワード:セクシュアリティ、文部科学省、学習指導要領、性教育、教育課程

連載 発達保障論をめぐる理論的問題(7)
発達保障論と環境問題をめぐって−私の研究の歩みを通して
 藤本文朗(大阪健康福祉短期大学)

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