障害者問題研究  第33巻第4号(通巻124号)
2006年2月25日発行  ISBN4-88134-334-3 C3036  定価 本体2000円+税

特集 コミュニケーションの発達と指導

特集にあたって 荒木穂積(本誌編集委員)

コミュニケーションの発達と注意共有機構―三者関係の成立をめぐって/荒木穂積(立命館大学産業社会学部)

要旨:話しことば獲得期におけるコミュニケーションの発達をみてみると、9ヵ月から10ヵ月頃にかけて大きな変化が生じることがわかる。9ヵ月頃に「第三者」(ひとまたはもの)への志向性が芽生えはじめ、18ヵ月頃には「第2者」との間での「第3者」(ひとまたはもの)を共有するという「三者関係」が成立する。三者関係の成立を背景に視線(共同注意:joint attention)や指さし(社会的参照:social reference)が組み込まれた注意共有機構(SAM:Shared Attention Mechanism)が始動しはじめるのである。これによって、交換動作や模倣は飛躍的に発展する。
キーワード:話しことば獲得期、コミュニケーション、注意共有機構、三者関係の形成



人間の発達とコミュニケーション―「交流」の発達を中心に/荒木美知子(大阪女子短期大学)

要旨:「人間の発達とコミュニケーション」の課題はもとよりことばの発達を問題とするものではない。コミュニケーションは人間どうしが共有するものをえる過程であり、ソビエト心理学において独自に研究が蓄積されてきた「交流」をキー概念として人間の発達過程をとらえ直す。交流の発達過程を明らかにするとは、自立するための諸能力を習得する過程および他の人々との協同をより豊かにする過程を明らかにすることを意味する。本稿では、交流の発生史研究において評価されているエム・イ・リシナの研究を手がかりに育児記録を分析してその意義を明らかにすることを課題とする。
キーワード:コミュニケーション、交流様式、共有するもの、身辺自立、手伝い


1、2歳児のふり遊びにみるコミュニケーションの発達/荒井庸子(宇治市発達相談員)

要旨:本研究の目的は、ふり遊びの発達をコミュニケーション発達との関係から検討していくことである。特に、ふり遊びが出現し豊かに展開されていく1・2歳児のふり遊びに着目することで、ふり遊びを発生させ発展させていくための教育的対応にしさを与えていきたい。本研究では、保育園に在籍する乳幼児89名を対象とし、機能的行為課題、つもり行為課題、ふり行為課題の3つの実験課題をおこなった。被研児はコミュニケーション発達の指標に基づいて4つの発達段階に区分し、それぞれの行為の獲得状況と発達段階との関係を検討した。その結果、ふり遊びの発生と発展には1歳半頃に獲得される表彰と三者関係の成立が関係していることが考察された。また、ふり遊び発生以前の発達段階においては、三者関係を意識した関わりの中で模倣による学習を保障していくことが重要であると考察された。
キーワード:ふり遊び、機能的行為、模倣、表象、三者関係



遊びの指導とコミュニケーションの発達―療育教室における遊びの分析/長崎純子(京田辺市療育教室発達相談員)

要旨:本研究では、療育プログラム作成の手がかりとして、京田辺市療育教室に通う子どもたちを「発達段階」及び「自閉的傾向の有無」に分類し、各群における活動へのとりくみの状況と他者(大人・他児)との関係、それに付随するコミュニケーションの発達について分析した。その結果、手指の操作やイメージ形成では、大人や他児の存在は自閉的傾向の有無に関わらず重要であるが、同一の発達段階であっても自閉傾向の有無によって他者の役割が変わる。特に自閉症児は、コミュニケーションの発達との関係で遊びの中身をつくることが重要である。
キーワード:遊び、コミュニケーション、療育プログラム、発達段階、障害特性



障害児の子育て支援と療育における絵本の役割―コミュニケーションの力をひろげる/両角正子(障害児通園施設・こじか園)

要旨:障害児の子育て支援として絵本の果たす役割は大きい。しかし家庭だけの努力では、絵本の楽しみ・喜びを手にすることは困難であり、そこに障害児施設の専門性が求められる。障害の重い子どもも、多動で言葉とコミュニケーションに障害がある自閉症の子どもも、絵本から題材をとったミュージカル仕立ての動きのあるペープサートや人形劇のおはなしに興味をもち集中する。それをきっかけに題材になった元の絵本を好きになっていく傾向が強い。施設で園文庫を設置して、毎日貸し出しをするなど家庭での絵本の読み聞かせの動機を高めると、良い循環を形成する。ことばの理解やイメージの拡がりに強い制約をもつ自閉症児でも、絵本を楽しむなかで人とのやりとりを楽しみ、コミュニケーションの力をひろげていく。すべての障害児に豊かな育ちを保障する内容に、絵本の楽しみが含まれる。
キーワード:障害児、絵本、子育て支援、ミュージカル仕立てのおはなし



重症心身障害児のコミュニケーション指導の視点/北島善夫(千葉大学教育学部)

要旨:重症心身障害児のコミュニケーション指導で重要と考えられる基本的視点を提起した。1)特別な時間と場面を設定しての指導ではなく、生活に密着した支援のなかで、コミュニケーションに関わる発達全般を促す視点が重要である。そこでは、2)対物行動を含む「感覚と運動の初期学習」「定位・探索行動」を促し外界認識を高める視点が重要であり、その際の指導者のかかわりそのもの(事物を用いた共同活動)がコミュニケーション指導として重要である。実態把握では、3)「子どもの悲しみや辛さ、痛みの共感」、「内面・人格をもつ主体者と対話しようとする構え」が重要な視点である。さらに、4)コミュニケーションに何を求めているのかの欲求・動機の視点は実態把握の上で重要である。この際、リシナによるコミュニケーション論や欲求の表れとしての4つの行動は、コミュニケーションにかかわる子どもの実態を内面から把握し、指導を構成する上で有益である。
キーワード:重症心身障害、コミュニケーション指導、定位・探索行動、コミュニケーションの欲求・動機

実践
障害児通園施設におけるコミュニケーションの力をはぐくむ指導の視点
 ―知的障害とともにことばの遅れをもつ子どもへの取り組み/中平智子・神谷さとみ(「ゼノ」こばと園)

要旨:「ゼノ」こばと園では、ことばやコミュニケーションの力を他のさまざまな能力と切り離してとらえるのではなく、全体的な発達との関連でとらえ、豊かに育てたいと考えてきた。また、限られた場面での言語訓練ではなく、日常の生活や遊びを豊かにすることをとおして、人との関係のなかでことばを育てたいと考えている。「この人に伝えたい」という対人関係や、「このことを伝えたい」というイメージの力、そしてそれを表現する手段が獲得できることなどを、大切にしたい。本稿では、知的障害をもち、とりわけ表出言語のおくれのある一人の事例により、ことばやコミュニケーションの力をどのように育てようとしたかをまとめた。
キーワード:対人関係、イメージ、表現手段、主体性、目的、見通し


重症児のコミュニケーションと指導/高木尚(東京・多摩養護学校)

要旨:重症児とのコミュニケーションにおいて大切なことは、「微弱」といわれる発信を受け止めていく方法、コミュニケーションのキーワードの一つである「伝わったことの確認」を行うこと、子どもたちの意思表示に応えていくことと考えられる。意思表示がたしかに伝わることを理解することで、子どもたちは、発信の意義を知るとともに自己肯定感を感じ、人格機能を発達させていく。コミュニケーションは日常生活全般を通じて重視されなければならない。
キーワード:重症児、コミュニケーション、意思表示、自己肯定感、人格発達


実践報告
公共施設で働く知的障害者の集団づくり  ―清掃作業の休憩時間における実践/永澤精一(仙台市手をつなぐ育成会)・渡部信一(東北大学大学院教育情報学研究部)

要旨:筆者は、5名の中度および軽度の成人男性知的障害者に対して就労支援や自立支援を目的として、公共施設の清掃作業指導を行っている。以前、作業合間の休憩時間は、各自がぼんやりしたり、独り言を言って過ごしていた。筆者は、各々が会話を楽しみ、他者とコミュニケーションを深めていってほしいと考え、実践1として筆者が話し相手になり個人に対して働きかけを行った。しかし、結果的に、筆者からの一方的な話しかけに終わる、話題が広がらないなど、思うような効果を上げることができなかった。そこで実践2では、個人が興味や関心を持っている話題を皆で共有できるよう仲間全体に働きかけた。その結果、興味関心のある話題が媒介となって個人間で会話が成立し、最終的には全員で会話を楽しめるようになった。そして、ばらばらだった個人間に小集団としてのまとまりが生じ、その集団内で個人にも望ましい変化が認められた。
キーワード:知的障害者、休憩時間、個別指導、小集団活動、実践研究

連載 発達保障論をめぐる理論的問題(8)
発達保障における人格概念とコミュニケーション/二宮厚美(神戸大学発達科学部)

33巻総目次 79

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