特集 保育所・幼稚園における障害児保育 特集にあたって／中村尚子（立正大学）  乳幼児期の発達保障における保育所・幼稚園の役割／近藤直子（日本福祉大学子ども発達学部） 乳幼児期の障害児が保育所･幼稚園において保育を受けられるよう，国の施策化が図られた1974年からすでに40年が経過したが，何が前進し何が課題として残されているのかを三つの視点から検討した．第一の視点は，障害児とその保護者にとって乳幼児期がもつ意味という視点である．第二の視点は，集団保育の場としての保育所・幼稚園に求められる意味という視点である．第三の視点は，自治体における発達保障システムにおける保育所・幼稚園の位置付けと，果たすべき役割という視点である．これらの検討を通して，現在の国や自治体の施策が，母子保健，療育，そして保育所･幼稚園の保育と，縦割り行政の中で抱えてきた矛盾と共に，先進自治体に見られる今後の可能性に関して概括し，障害を疑われる乳幼児に対する総合的な発達保障政策確立の必要性を提起した． 障害のある子どもが仲間とともに育ち合う保育実践の検討／寺川志奈子（鳥取大学地域学部） 本論文では，障害のある子どもが，仲間とともに育ち合う保育実践のあり方について，統合保育を行ってきた保育所，幼稚園における保育実践事例をもとに検討した．障害児保育をすすめる上で大きな役割を担っている加配保育士はさまざまな悩みを抱えていた．担任保育士と加配保育士が連携を図って保育をすすめるためには，個別の発達課題を共有するとともに，生活集団のなかで子どもの発達を捉える視点を持ち支援することが重要であることを指摘した．また，「個の育ち」とともに「集団の育ち」を支援することが求められる．そのための，仲間の思いに心を寄せる集団づくりのあり方，一人ひとりの発達的力量が違っても個々の持ち味が発揮されるような集団の遊びの工夫について考察した．さらに，障害のある子どもが集団参加を実現していくプロセスを追い，活動の設定の仕方や支援のあり方の留意点について考察した． インクルーシブ保育と子どもの参加を支援する巡回相談／浜谷直人（首都大学東京都市教養学部） 統合保育実践は，健常児の保育の場に障がい児が統合されることを前提としてきたが，それは，子ども一人一人の多様性と基本的人権を保障して，どの子どもも保育の活動に参加することを実現するインクルーシブ保育とは原理的に異なることを理論的に提起した．統合型と分離型のインクルーシブ保育実践を，それぞれ１事例取り上げて，子どもが参加を実現するまでの過程を分析した．活動を媒介にして参加が実現すること，クラスのローカルデザインや子どもに応じたパーソナルデザインが豊かな実践を生みだすことを見出した．最後に，参加を実現する巡回相談において，アセスメントは，書き換え可能で解放されていること，ポジティブで実践から学ぶ，柔軟であることが重要であることを指摘した． 【実践報告】 子育て支援・障害児支援における保育所の役割 ――香味市の保育園の実態とその中でのある実践／国沢マキ（香味市立公立保育園） 共に育ちあう仲間関係を／渡邉綾・池田かよ子（東京・平塚幼稚園） 保育所における障害児保育の実践と巡回相談 ／河本千帆（大津市立唐崎保育園）・髙田智行（大津市幼児政策課） こども発達支援センター（専門施設）と保育所等の連携による支援 ――乳幼児健診からはじまる地域療育ネットワーク 栗栖小枝子・部谷加奈美・山田美鈴・三田一美（広島県三次市こども発達支援センター） 【動向】 子ども・子育て支援新制度と障害児保育／藤林清仁（名古屋経営短期大学） 連載／実践に学ぶ ①評価に揺れるA君と向き合って／多賀谷岬（児童発達支援センター ひかり園） 【多賀谷実践に学ぶ】「問題行動」の中に輝きを求めて／内田芳夫（南九州大学） ②心地よさの共有から人へ向かう力へ ――肢体不自由校小学部K君の2年間から／古澤直子（東京都立特別支援学校） 【古澤実践に学ぶ】教職員の集団的討議により子ども理解を深めた実践／細渕富夫（埼玉大学） 【発達保障のために学びたい本】 『未来にひらく教育と福祉 ――地域に発達保障のネットワークを築く』 ／〈解説〉品川文雄（特別非営利活動法人 発達保障研究センター、元障害児学級教員） 【書評】 伊藤修毅著『障害者の就労と福祉的支援』 ／〈評者〉山中冴子（埼玉大学教育学部） ■障害者問題研究 バックナンバーへ |
