障害者問題研究
  第49巻4号(通巻188号)

  
JAPANESE JOURNAL ON THE ISSUES OF PERSONS WITH DISABILTIES
2022年2月25日発行 ISBN-984-4-88134-006-6  C3037 定価2750円(2500円+税)
特集 障害のある人の思春期における発達と教育実践


特集にあたって/楠 凡之

障害の重い人の思春期における発達と教育実践
 白石恵理子 滋賀大学教育学部
 本論では,重い障害のある人の思春期について,その発達的位置と教育課題について総論的に提起する.児童期から青年期への移行期にある思春期のもつ発達的意義は,重い障害のある人においても重要であるが,ときに「命の危機」に直面したり,過敏さが強まることによって周囲をも巻き込む不安定さを呈する時期になりやすい.障害の重い場合,思春期にどういう姿があらわれやすいかを述べたうえで,近江学園での1968年の実践,特別支援学校中学部での教育実践を紹介し,教育課題についても提起する.

特別支援学校中学部生徒の発達的特徴と教育実践
 教員へのインタビューを通して
 松島明日香 滋賀大学教育学部
 羽山裕子 滋賀大学教育学部
 思春期を迎える障害児については事例を中心とした豊かな実践の中で語られることはあるが,その心理的特徴や中学部独自のカリキュラムや教育方法との関連性について論じたものは少ない.本研究では,特別支援学校中学部の教員4名にインタビューを行い,思春期にある生徒の姿をどのように捉えているのか,何を意識して実践に取り組んでいるのかについて調査した.分析の結果,教師が捉える思春期の発達的特徴として「生活の主体になることを願う」,「関係性の変化」,「感じ方・捉え方の変化」,「生理的・身体的変化」の4つの特徴が見出された.中学部は比較的子どもの実態に合わせて緩やかに実践を行うことができる時期であることが示され,教師は生徒の発達的な変化を意識しながら,教育内容や教育方法,生徒とのかかわりを模索していることが明らかになった.

思春期における療育・教育実践の歴史から学ぶ
 ――近江学園,あざみ寮,びわこ学園における実践と糸賀一雄の思想
 垂髪あかり 神戸松蔭学院大学
 終戦後から1970年代における近江学園,あざみ寮,びわこ学園における思春期の子どもたちへの教育実践と糸賀一雄の思想について検討した.学園開設初期に行われた生産教育では,技術の向上や生産量の増大を目指す指導が主となり,教育的な指導が蔑ろになったことを糸賀は自省している.その後,糸賀の職業教育観は「さくら組」「杉の子組」等の実践で障害の重い子どもたちの変容を捉えたことや,産業教育部での生活指導を基底とする職業教育の実践,あざみ寮での知的障害女子への実践のなかで,子どもたちが人格的に成長していく姿を確認し,その変容や成長を「発達的な視点」で捉えたことで転換していく.さらに,重症心身障害児施設びわこ学園における実践で,重症心身障害児者の無限の発達の可能性を捉えた糸賀は,彼らが自己実現する姿を「重症児の生産性」として提起した.思春期の子どもたち一人ひとりの内面に心を寄せながら,自分自身とも格闘し続けた糸賀の姿勢は,びわこ学園における重症心身障害児者への実践にも継承されている.

実践報告
 「恋心」「憧れ」「お姉さん心」を育み,思春期の困難を乗り越える

 益本裕美 埼玉県久喜市・放課後等デイサービス モンキーポッド

実践報告
 特別支援学校における自分づくりの実践

 ――思春期を生きる子どもたちから学んだこと
 石田 誠 京都府立与謝の海支援学校教諭

実践報告
 重症心身障害者に対する思春期の実践

 ――施設内高等部訪問学級の取り組み
 片山伴子 和歌山県立紀北特別支援学校教諭

【報告】
 娘との生活を共に紡いで

 ――思春期を振り返る
 尾﨑洋子 広島県廿日市市・保護者


連載/実践に学ぶ
【特別支援学校高等部の実践】

 学校が人を好きになれる場所に
 京都府・特別支援学校教員 大西友里絵

【大西実践に学ぶ】
 安心できる学級の中で人への信頼が育まれる
 東京都・特別支援学校教員  古澤直子

連載/実践に学ぶ
【「福祉型専攻科」の実践】

 不安な青年期を乗り越える
 ――専攻科の生活介護クラスの取り組み
 (社福)麦の芽福祉会 ユーススコラ鹿児島学園長 西園健三

【西園実践に学ぶ】
 障害の重い人を含めた青年期の学びの可能性を探る
 (社福)ゆいの里福祉会 細野浩一


連載/ワイドアングル 第16回
 自分を傷つけずにはいられない子どもたち

 ――「見える」傷の背後にある「見えない傷」の理解と支援
 松本俊彦
 国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部

本誌読む会のお知らせ   案内チラシ(PDF)
 日時 5月29日(日)10時~12時
 話題提供=益本裕美さん(放課後等デイサービス モンキーポッド)
 「恋心」「憧れ」「お姉さん心」を育み、思春期の困難を乗り越える
 ナビゲーター=白石恵理子さん(滋賀大学教育学部)

読む会参加申し込みフォーム
 https://forms.gle/9xHeT45hY8Cw2tVu6

読む会へのおさそい/白石恵理子
 反抗が強まったかと思うとベッタリ甘えてくる、イライラしていたかと思うと急に笑い出す、一人になりたがったかと思えば友だちへの意識が強まる…子どもからおとなに変わりゆく時期は、「思春期」という言葉で片づけられないほど、複雑で多面的です。障害のある場合、そうした「ゆれ」「ゆらぎ」が周囲をまきこんだ困難さにつながることもあります。
 思春期という、一人ひとりのこどもたちが、新しい世界に気づき、自分をみつめ、ゆっくり自分をつくりかえていくかけがえのない時期を応援するために、周りのおとなや社会に求められていることは何でしょうか。学校、家庭、そして放課後、それぞれの場から考えてみませんか。

本誌紹介チラシ(PDF)をご活用ください

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