文部科学省・特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議
 「今後の特別支援教育の在り方について」(最終報告)に関する見解

 「障害児学級がなくなってしまったら、子どもがどうなってしまうか不安です」
 「ゆっくりでも少しずつ成長してきた息子です。障害児学級の環境だからこそ、のびのび楽しく学習・生活ができたのです」

 特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議の最終報告(3月28日)にふれた保護者の、率直な感想です。

 報告は、LD、ADHD、高機能自閉症の子ども(以下、LD等の子ども)への教育的な対応や地域の総合的な教育的支援体制の構築、「個別の教育支援計画」の策定などにふれています。「特殊教育から特別支援教育への転換」をうたい障害児教育制度の全般的転換を提言したこの報告には、見過ごすことのできない問題点が含まれています。

 報告全体を貫く基本的な問題点は、「特殊教育」の基盤整備は完了したとしている点です。障害児教育への期待が高まり、障害児学校・障害児学級・通級指導教室での教育を受ける子どもが増えているにもかかわらず、障害児学校は過密・過大化し、障害児学級・通級指導教室は未設置の学校や地域が多いなど、「基盤整備」に関わる課題は山積しています。ところが報告は「量的な面において概ねナショナルミニマムは達成された」とし、教育条件を整備する国の責任を放棄しているのです。

 また、LD等の子どもへの教育的な対応や地域の総合的な教育的支援体制の構築等を提言しているにもかかわらず、この新しい課題に対していまある特殊教育資源の「再配分」で対応するとして、特別な人的・物的条件の整備を想定していません。LD等の子どもを含む通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする子どもには、総合的な支援の中心となる特別支援教育コーディネーターを置くとしていますが、新たな人員増は行わず、学校の校務に位置づけるに止まりました。

 さらに、盲・聾・養護学校を「地域の特別支援教育のセンター的役割」を担う「特別支援学校」に変えるとしてますが、ここにも新たな人的・物的条件の整備は行いません。これでは障害児学校で学ぶ子どもの教育への権利の切り下げになります。

 報告の中でとりわけ問題なのは、これまで多くの障害児が、同じ障害をもつ仲間や先生と学習や生活をともにすることで成長・発達してきた障害児学級をなくすとしている点です。障害児学級で学ぶ子どもたちを含め、小・中学校で学ぶ障害のある子どもたちはすべて通常学級籍となり、「障害に配慮した特別の教科指導」や「障害に起因する困難の改善・克服にむけた自立活動」のみを「特別支援教室」で受けることになります。障害児学級がなくなることは、成長・発達のために特別なカリキュラムを必要とする子どもたちにとって、学校生活の基盤となる場が奪われることです。これは報告の最大の問題点です。

 私たちは憲法・教育基本法のいう「能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利」、すなわち「障害や発達に必要かつ適切な教育を受ける権利」にもとづいて、障害のある子どもたち、その保護者、関係者の願いや要求を束ね、養護学校義務制実現や高等部増設と希望者全入、医療的ケア充実の運動などに取り組んできました。しかし、障害児一人ひとりの豊かな成長・発達に必要な制度・条件・内容になっているかといえば、未だ不十分であり、改革は早急に必要です。けれども報告にいう障害児教育の新たな体制・システムは、求められる改革の課題にこたえるどころか、後退をもたらすことは明らかです。

 私たちは、憲法・教育基本法に示された発達権・学習権、子どもの権利条約に示された特別なニーズと特別なケアの権利を保障するために、障害児学校も、障害児学級も、通級指導教室も、通常の学級における特別な教育も、十分に整備・充実させることを国や地方自治体に求めます。また30人学級の実現や教育課程の改善など通常の学校の教育を抜本的に改めることも必要です。新たに提起されたLD等の子どもへの教育の対応や地域の総合的な教育的支援体制の構築等は、こうした整備・充実の中で、その一環として検討されるべきだと考えます。

        2003年5月25日 全国障害者問題研究会常任全国委員会

<全障研声明>戦争のための人づくりをねらう教育基本法の改悪に反対します 2003.3.21
 
特別支援教育、教育教育基本法 関連資料新

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