白石連載<もう一つの「発達のなかの煌(きら)めき」>第2回解説版

白石正久・白石恵理子連載の解説版
〈もう一つの「発達のなかの煌(きら)めき」〉第2回

第2回 乳児期前半の発達の階層‐段階

 「もう一つの『発達のなかの煌めき』」(以下では「もう一つ」)の第1回をお読みいただいた方から、『みんなのねがい』連載といっしょに「読みあわせ」の学習会を開催したら、議論が具体的になり、学習の深まりを実感する時間になったとの感想をいただきました。

 この「もう一つ」への私たちの願いは、そういった学習会や読者会が職場や地域で拡がって、『みんなのねがい』がみなさんの共有の財産になっていくことです。わが家の書庫には、学生時代から読みつづけてきた『みんなのねがい』が大切に並べられています。そこには、その時々の全障研サークルの仲間との語りあいがいっしょに記憶されているのです。

 定期購読の読者の輪を拡げつつ、ぜひ学習会、読者会を始めてみてください。もちろん、全障研サークルでもOKです。「みんなのねがいWEB」の「発達診断セミナー」を開いていただくと、その最下欄に「サークル活動の手引き」があります。そこには、全国のサークルや読者会のようす、さらに品川文雄さん(元全障研委員長)による「実践記録を記録し、実践報告を書き、学び合おう」が掲載されています。


発達の階層と3つの段階
 今回から、発達の道すじにそって解説を進めていきます。連載第2回(5月号)の「あなたといっしょに、もっと生きたい」のハルちゃんの発達は、乳児期前半の発達の階層‐段階にありました。

 前回の「もう一つ」で書いたように、階層とは大きな発達段階のことであり、乳児期前半の階層は出生から生後6、7か月ころにあたります。そのなかに、1か月ころ、3か月ころ、5か月ころという3つの段階が含まれます。田中昌人さんは、この階層を「回転可逆操作の階層」、そして3つの段階を、「回転軸1可逆操作期」「回転軸2可逆操作期」「回転軸3可逆操作期」としました。こういったむずかしい言葉を目にして、心が引いてしまうかもしれません。しかし、この発達段階の名前の意味がわからなければ発達がわからないということではありません。それぞれの発達段階のことを理解していくうえで、ヒントになることがその名前には隠れているらしい(・・・)という気持ちで相対(あいたい)してください。「可逆操作」については、前回の「もう一つ」で簡単に解説しています。これも、最初に定義を行なうよりも、具体的な子どもの発達の姿のなかから意味をつかんでいただけるようにと考えています。

 前回の「もう一つ」で解説したように、「回転可逆操作の階層」につづく乳児期後半の「連結可逆操作の階層」は、6、7か月ころから1歳前半までの大きな発達段階であり、そのなかに「示性数1可逆操作期」「示性数2可逆操作期」「示性数3可逆操作期」という3つの段階が含まれています。この発達段階については、次回解説する予定です。そして1歳半から7、8歳ころまでの幼児期・学童期前半の大きな発達段階は「次元可逆操作の階層」であり、そのなかに「1次元可逆操作期」「2次元可逆操作期」「3次元可逆操作期」という3つの段階が含まれています。「1」という数字のつく段階は、可逆操作の質が大きく変わる「飛躍的移行の時期」、すなわち「大きな発達の節」であることを前回述べました(前回の「可逆操作の高次化における階層?段階理論」の項では、「飛躍的以降の時期」となっていました。以降→移行と訂正いたします)。すぐには理解しにくいことでしょう。『新版・教育と保育のための発達診断・下巻』(以下では『下巻』)の6ページの図2「発達段階の説明図」を、何度もたどってみてください。

 田中昌人さんの「可逆操作の高次化における階層‐段階理論」は、3つの発達段階が、どの階層においても見出されるところに、ひとつの特徴があります。つまり発達はそれぞれの階層において3つの段階をのぼりきり、次の階層に入っていくのです。次の階層でも3つの発達段階が待っているということです。それは、まるで螺旋(らせん)階段をのぼっていくようです。なぜ「3つ」なのかと思われるかも知れませんが、その問いはしばらく保留していただいて、各階層の「1」「2」「3」という数字の意味を理解することから入りましょう。
 

「回転可逆操作の階層-段階」の特徴
 生後1か月ころの「回転軸1可逆操作期」では、まだ四肢が躯幹(くかん。からだから四肢を除いた部分)と一本の軸のように一体化しています。四肢を屈曲させた姿勢をとっていることが多く、顔の向いた側の上下肢を伸ばし、後頭部側の上下肢を曲げるATNR(非対称性緊張性頸反射)、びっくり反射とも言われるモロー(Moro)反射、手のひらに触れたものを握り込む手掌(しゅしょう)把握反射などの原始反射が現れます。そのために仰臥位(ぎょうがい。仰向けのこと)では、非対称姿勢をとっていることが多いでしょう。思い通りにはならない姿勢なので、この姿勢でいるときには笑顔にはなりません。手指は、親指を内に折り込んでおり、他の指と向きあってモノを握ることはありません。光や音などの刺激は「点」のように認知しており、線を引くように追視したり、音源を探そうとする動きはみられません。

 3か月ころの「回転軸2可逆操作期」になると、四肢が躯幹という軸から自由になり、もう1つの軸として動くようになって、緩やかに曲げたり伸ばしたりをくりかえします。親指は手のひらから離れて、ガラガラを持たせると自分で握り、やがて自分の手と手を触れあわすこともできるようになります(hand-hand coordination)。躯幹から四肢の運動が分離するようになって、原始反射はしだいに減っていきます。その結果、仰臥位は、対称姿勢をとっていることが多くなるでしょう。左右、頭足方向に追視して戻り(往復追視)、外界(がいかい)を連続した「線」のように認知しており、音源を探すように頸(くび)と眼球を動かすこともできるようになります。

 5か月ころの「回転軸3可逆操作期」になると、四肢がさらに自由に動き、そこから指の動きが分離して、第3の軸として外界に向かって開閉するようになります。ですから、追視のようすを確認するために胸の前に赤い輪などを提示すると、手を伸ばし手指を触れてつかもうとします。見る(追視)だけではつまらなくなり、見たものを把握することが子どもの欲求になっていきます。音源を探索して、それを見つめながら手を伸ばそうとする目と手の協応ができるようになります。

 つまり「回転可逆操作の階層」では、子どもが外界に向かってはたらきかけていくときの運動の「軸」が一つずつ増えていく、3つの発達段階が取り出されます。子どもには失礼ながら、躯幹を一本の丸太としてみるならば、その中央をタテに貫く基本の軸(これを正中線とよびます)を中心として、運動は軸を増やし、対称的に回転するように自由度を増していくということです(この乳児期前半の3つの発達段階は『下巻』の36~38ページ、往復追視の課題は、同43~44ページで解説されています)。


発達段階から発達段階への移行
 この「回転可逆操作の階層」の3つの発達段階は、はっきりと区別される特徴をもっていることがおわかりいただけるでしょう。言うまでもなく、段階から段階に移っていくときに、大きな発達の変化があるということです。それは前回の「もう一つ」で説明した階段を一つあがる質的な変化があるということです。その質的変化にはエネルギーや人間的な支えを必要としているので、「発達の障害」がはっきりとしてくるときでもあります(詳しくは『下巻』192~217ページ「Ⅲ 『発達の障害』と発達診断」)。

 それでは移行のときである「回転軸2形成期」と「回転軸3形成期」について解説します。

・第1段階から第2段階への移行(回転軸2形成期)と「途切れてもつながる」
 「回転軸1可逆操作期」から「回転軸2可逆操作期」へ向かう「回転軸2形成期」(2か月ころ)では、快と不快の情動が分化して、心地よい色彩や音に引きつけられるようになります。ミルクなどの美味しいものを与えてくれ、あやしてくれる人の表情や声がわかって、その人の顔を探すようになります。その人の抱き方もわかって、それ以外の抱き方に対して、不機嫌になることもあるでしょう。そして、その人の顔に近づこうとするように手足を動かすようになります。だからATNRがあって非対称姿勢になっていても、一生懸命に頸を動かし、手足が躯幹から分離した動きをするようになっていきます。


 追視は、左右いずれかが上手で、まだ往復(可逆)追視が確実にできるわけではありません。しかし、視線が途切れても、もう一度それを見つけることができるようになります。そして、日ごろはたらきかけてくれる人の顔を追跡するようにもなります。見失っても、もう一度見つけようとすることでしょう。そのような「途切れても戻る」という復元性があるから、外界への意欲的な探索がたしかになっていくのです。やがて「行って戻る」という自由度のある往復追視へと発展していきます。

 この過程では、心地よい世界を創ってくれる特定の他者への「人を求めてやまない心」が、感覚や運動の発達を牽引(けんいん)しているようにみえます。すでにこの段階で、「人」は特別な意味をもちはじめているのです。

・不快や機嫌の悪さからの復元
 「回転軸2形成期」では、おとなが一方的に名前を呼んだり、歌いかけるだけで、心のキャッチボールをしてくれないときには、機嫌が悪くなって泣き出してしまうことがあります。小さいけれども、ちゃんと心の動きを受けとめてくれる関わりをしてほしいのです。

 このように「2」のつく発達段階の準備のはじまる「形成期」では、乳児期前半の「快と不快」、乳児期後半の外界への「興味と不安」というように、まるで硬貨の表裏の関係で結びついている相反する情動・感情が生まれます(情動と感情は明確には区別されず、情動は喜怒哀楽などとして分化していく社会的感情の原初のレベル、短時間で生じる強い感情のことを言います。乳児期前半の発達の階層における快と不快は、ここでは情動としました)。肯定的な情動・感情が妨げられたり、状況が変化することによって、快から不快が、興味から不安がというように、情動・感情が変転していくのです。

 このときの情動や感情の不安定さの背景には、聴きたい、見たいという外界への欲求を高めながら、そのための感覚や運動が思い通りには使えないという矛盾があります。このときに、子どもの機嫌の悪さや不安の強まりを我がことのように受けとめ、その感情をなんとか元に戻そうとしてくれたり、思い通りにならない運動に手をさしのべてくれる人がいることによって、子どもは不快や不安から、情動・感情を復元させていくことができるのです。

・第2段階から第3段階への移行(回転軸3形成期)と「生後第1の新しい発達の力」の誕生
 「回転軸2可逆操作期」から「回転軸3可逆操作期」に向かう「回転軸3形成期」(4か月ころ)では、外界をとらえる視覚や聴覚、躯幹、四肢、手指の運動の自由の拡大によって、少し遠くにあるものも欲しがるようになります。伏臥位(ふくがい。うつ伏せのこと)では、肘で支えて頸を挙げる肘支位(ちゅうしい)ができるようになり、左右方向にあるものを取ろうとして寝返りにも挑戦します。自分では座れませんが、膝の上で支えてやれば頸はすわっており、支座位で、左右、上下の追視をし、音源も探すようになります。

 正面に2つのおもちゃを出すと、一方だけではなく他方にも視線を向けて、一つだけではないモノに手を出そうとします。これが『みんなのねがい』5月号(28ページ下段)で解説した「可逆対(つい)追視」の芽生えである「対追視」です。そのことによって一方だけではない、さまざまな方向やモノに注意を向け、そのなかから選択的な関わりをするようになるのです(「対追視」は『下巻』42ペーシと46ページで写真とともに解説されています)。

 このころ、相手の顔をまじまじと見つめ、それが誰であるかわかったように、子どもから微笑みかけるようになります。つまり、一つではないものを視野に入れることができるようになって、人と人を区別し、その人をその人と分かったうえで、自分から微笑みかけようとしているようです。つまり、あやされたことがうれしくて微笑むのではなく、子どものなかに「わかった!」というような認識と情動が生まれて、自分から他者に向かってはたらきかけようとしているのです。これが5月号(28ページ下段~29ページ上段)で取り上げた「ひとしり初(そ)めしほほえみ」です。乳児期後半の「連結可逆操作の階層」において、発達を主導する役割をはたすコミュニケーション手段と人間関係が芽生えているのです(「ひとしり初めしほほえみ」は『下巻』41ページで解説されています)。

 こういった主体的なコミュニケーションや自らモノをつかもうとする活動などが、仰臥位だけではなく、支座位や伏臥位という楽ではない抵抗のある姿勢でもなされるようになります。さらに、他児が離乳食を食べさせてもらっている姿や、それを援助しているおとなを見比べて、自分にも食べさせてほしいというしぐさをするようになります。人と人の「対」の関係をとらえて、それを欲求の対象とするようになっていくのです。


ハルちゃんの発達から学ぶ
・追視の応答にみる復元性
 さて、5月号のハルちゃんは、どのように発達の道すじを歩いていたのでしょうか。重症児の場合には脳性マヒ、中枢性の視覚障害、さらには難治性てんかんや抗てんかん薬の副作用による覚醒のふたしかさなどがあり、運動、感覚、コミュニケーションなどの応答が安定しないことがほとんどです。そのときに、たとえば往復追視ができないからと言って、「回転軸2可逆操作」を獲得していないとは言えないでしょう。

 ハルちゃんも、視覚障害があって「見えにくい」と言われていました。しかし、丹波養護学校亀岡分校の先生方の教材への強い思いによって創られた『三びきのやぎのがらがらどん』の授業のなかで、ハルちゃんは緊張や非対称姿勢に打ち克って、「やぎ」の動きを追視したのです。それは「やぎ」への追視でしたが、歌い、語りかけ、そしてからだを包みこむように受けとめてくれていた先生方への「人を求めてやまない心」が、見たい、聴きたいという思いになって結実したのだと思います。事実、朝の「呼名」では、「まるで細い糸で結ばれたように」先生の顔を追いつづけました。「途切れても戻る」という追視の復元性が、たしかになっていったのです。もちろん、視覚障害ゆえに、よどみなく追視しつづけられたわけではありませんでした。しかし、この復元性は、往復追視ができること以上に発達の本質的な力としてとらえられるのです。しかも、そのときに「もう一人」の先生のはたらきかけを待っていたように、ニッコリ微笑んでくれました。そこには、「対追視」と同じように外界を知り分け、それぞれを自分のなかに取り込んでいこうとする「心の窓」が開き始めていました。

・発達の一歩前からのはたらきかけ
 ハルちゃんの発達をたどると、教育のなかに大切なはたらきかけがあったことに気づきます。『三びきのやぎのがらがらどん』の授業では、「次の展開を予期し意欲を高めていけるような工夫」(27ページ下段)が随所になされていました。次の展開を予期することは、「回転軸2可逆操作」を獲得しようとしている子どもにとっては、まだむずかしいことです。しかし、「今」と「次」の関係が心に残るように、楽しい音楽、「おや、なんだろう」と思える登場物、心弾むような先生の声というハルちゃんの大好きなことを手がかりにして、発達の一歩前からはたらきかけていったのです。一人だけではない「もう一人」の先生が、それぞれの語り方を大切にしてハルちゃんにはたらきかけていたことも、発達の一歩前からのはたらきかけであったと思われます。

 「一歩前からのはたらきかけ」とは、次の発達段階の特徴をもった少しむずかしいことだけれど、やってみようと思える活動を発達的な抵抗として組織することで、子どもが発達の矛盾を乗り越えようとするように導くということです。その答えは、すぐに出るものではありません。しかし、長い見通しのなかで、一日一日の授業を楽しみながら積み重ねていくという日常を大切にすることによって、ハルちゃんは一人ではない、もう一人の先生の「呼名」も予期できるようになっていきました。

 予期は認識の力ですが、次をワクワク期待するという情意の力とつながっていきます。期待の芽生えは、「生後第1の新しい発達の力」(4か月ころ)として大切な役割を果たすことになります。


発達を過程として理解する
 乳児期前半の「回転軸可逆操作の階層」にある子どもを担当されている方は、多くはないでしょう。また、最重度の子どもを指導する自信がないので、担当になることは回避したいという思いも、現場にはあると聞きました。しかし、このテーマを5月号において選択したのには、私たちなりの願いがあります。

 5月号で書いたように、「ともに生きる」あるいは「いのちを守る」営みへの想像力の大切さを、みなさんと共有したいという思いがありました。しかし、それだけではありません。

 発達の学習は、担当している子どものことを理解するために大切だと思われていることでしょう。だから、その子どもが「今」歩んでいる発達の道すじに焦点を当てて、その発達段階の特徴から学ぶことはよくあることですし、そうすることで子ども理解のヒントが得られることはたしかです。しかし、目の前にいる子どものなかには、その発達段階にいたるまでに歩んできた発達の道すじが、見えないけれども存在しているのです。そして、これからまだ長い発達の道すじを、一生懸命に歩いていくのです。

 たとえば今回解説した「回転軸2形成期」(2か月)ころの「切れても戻る」復元性や快・不快の情動を調節することは、やがて「生後第1の新しい発達の力」の誕生において、コミュニケーションの主人公になり、外界に自らはたらきかける力に発展していきます。それは、伏臥位や支座位でもその力を発揮しようとする、抵抗に立ち向かう姿につながっていくことでしょう。そして、その子らしい人格の特徴として、一人の人間のなかに積み重なっていきます。そういった過程を遡(さかのぼ)り、その子の歩いてきた発達の道すじのすべてを知ろうとすること、そしてその道すじに関わってきた保育や教育、生活のありようを知ることは、きっと子どもの理解に深みを与えてくれます。それは、子どもの発達を目に見える技能、能力において理解するだけではなく、情動や感情、意欲や意志、自我のありようなど、一人ひとりの人格を形づくる大切なことに目を向けることにもなるでしょう。

 そして、発達の道すじのすべてを知ることは、目の前の子どもの理解を深めるだけではありません。人間は、発達において挫(くじ)けそうになっても、人とつながりながら自らを復元させ、やがて抵抗に立ち向かい、螺旋階段をのぼろうとするのです。そういった発達の道すじを貫く発達の法則を生き生きと認識することは、「人間というもの」、つまり人間の普遍性を理解していくことにつながると私たちは考えています。発達を通して「人間というもの」を知ることは、他者を慈しみ、そして自分を慈しみながら、共に生きていくための大切な「心の目」を与えてくれるはずです。

今回の学習参考文献
・白石正久・白石恵理子編(2020)『新版・教育と保育のための発達診断・下巻』全障研出版部



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2022年04月27日